特集 ながれマルチメディア ―― 学会電子化への実験/酒井 敏

議論の末、「別刷」に関しては「確かに流体力学会が発行したものに論文が載っている」事が証明できればよい、と考え「CD-ROMが入ったアテ板(冊子に綴じ込むボール紙)全体」を「別刷」と定義し、これを著者に渡すことにしました。また、引用に関してはWeb上のURLを固定できるよう独自ドメイン名を取るほか、URLでの引用が許されないような場合に対応するため、紙の「ながれ」にアブストラクトを印刷し、そのページを引用することができるようにしました。

これらは、とりあえず考えられる限りの具体的な対応策をとりました。これだけ対策を立てても、「そもそも紙にならない論文など、論文ではない」という固い読者が多くいることも事実で、最終的にどこまで受け入れられるか不安なところもありました。しかし実は、そんなことよりもっと根本的な重大な問題があるのです。それは、

原著論文をネットワーク配信したらどうなるか?

ということです。原著論文は学会にとって重要な「商品」です。原著論文が誰でもタダで読めるようになれば、情報を得るために学会員になる必要はなくなります。つまり、学会員が減少し、学会が経済的に破綻する危険性をはらんでいるわけです。しかしながら、アクセスに制限をつければ逆に読んでくれる人は少なくなり、そんなところに投稿したいと思う著者はいなくなります。これは、後に述べるように根本的な学会のあり方にかかわる重大な問題で、即座に解決できる問題ではありません。しかし、一度はじめてしまえば、後戻りのできないパンドラの箱なのです。