資料1…鳥類の呼吸器官における一方向流れ



 鳥類は飛行という特殊能力を達成するために高効率なガス交換が必要であり、そのため、その呼吸器官は哺乳類のものとはかなり異なった構造をしている(1)。この鳥類の呼吸器官の構造や内部の流れ方向についてはすでに多くの研究がなされており、内部流れにおいては一方向流れという特異な現象が見られることが報告されている(2)
 右図はその構造と一呼吸時における空気の流れの概略を示している。図に示すように、主気管支において一呼吸で流れの方向は反転するが、ガス交換の場であるParabronchiにおいては吸入時吐き出し時とも常に尾部気管支から頭部気管支へ(図中右から左)向かう一方向流れとなっている。

 鳥の呼吸器官の概略とその内部の流れ
 このような一方向流れの利点として、血液と空気の流れを常に対向することにより高効率な酸素吸入を行うことが可能になると考えられている(3)。実際の鳥(2.8Kgのガチョウ)の呼吸量から計算された安静時の気管支におけるレイノルズ数は66〜660であると報告されている(4)。
 しかしながら、このような一方向流れの生成において幾つかの疑問点が指摘されている。その一つは、吸入時において主気管支より流入した空気は頭部気管支分岐において頭部気管支には流入せず、ほとんどが中央気管支に流入することである(図中の赤い四角の領域)。この現象は、分岐部に弁のような機械的作用をもたらす機構がないことから、空力的バルビング(5)と呼ばれている。
 この現象に対して、いままで幾つかの一方向流れ生成要因の仮説が報告(6) (7)されている。その一つとして、Wang(8)らは分岐角度のような鳥の肺の幾何形状が起因しているのではなく、分岐部上流に存在する収縮部が縮流ジョットを形成し、これにより分岐への流入が抑制され、一方向流れが生成されているであろうと報告している。彼らは、分岐部上流に収縮部を設けたモデルを用いた実験を行い、支管側への流れを制御できることを示した。実際の鳥において、この収縮部は主気管支に存在し、収縮部内径dと主気管支内径Dの比d/Dは、おおむね0.3〜0.8の間であることが計測されている(9)

参考文献
(1) Duncker, H.-R., "Structure of avian lungs", Respir. Physiol., 14(1972),44-63.
(2) Bretz, W. L., "Bird respiration: Flow patterns in the duck lung", J. Exp. Biol., 54(1971), 103-118.
(3) Kuethe, D. O., "Fluid mechanical valving of air flow in bird lungs", J. Exp. Biol., 136(1988), 1-12.
(4) Banzett, R. B. et. al., "Inspiratory aerodynamic valving in goose lungs depends on gas density and velocity", Respir. Physiol., 70(1987), 287-300.
(5) Johes, J. H., et. al., "Control of air flow in bird lungs: radiograohic studies", Respir. Physiol., 45 (1981), 121-131.
(6) Hazelhoff, E. H., "Structure and function of the lung of birds", Poultry Sci., 30(1951), 1-10.
(7) Brackenbury, J., "Corrections to the Hazelhoff model of airflow in the avian lung", Respir. Physiol, 36(1979), 143-154.
(8) Wang, N., et. al., "Bird lung models show that convective inertia effects inspiratory aerodynamic valving", Respir. Physiol., 73(1988), 111-124.
(9) Wang, N., et. al., "An aerodynamic valve in the avian primary bronchus", J. Exp. Zool., 262(1992), 441-445.