3.実験結果及び考察
 
3.2 局所乱流塊の構造
 
図4eの瞬間波形からもわかるように乱流と不安定波が共存しているため乱流領域の境界は必ずしも明確でない。実際、二次元境界層中の乱流斑点も境界は明確でなく、その輪郭は任意に定義される。ここでは乱れ強度の集合平均値<v ’>が2%以上の領域を乱流域とみなす。

時刻はt/T =0.088間隔で0.088≦t/T ≦1.76の範囲を変化。
レイノルズ数R は半径r に比例するのでR 方向はそのままr 方向に対応する。

画像から、与えた撹乱は孤立した乱流塊となり、成長しながら回転方向と逆方向に移動することがわかる。円盤に固定した座標系から見ればこの移動の方向はすなわち流れ方向であるから、撹乱の群速度は正であり、二次元境界層中の乱流斑点やT-S型波束撹乱(付録1)と同様である。

最初に乱流塊が現れるのは 276であり、この値はC-F不安定の臨界レイノルズ数(Itoh 1998a)にほぼ近い。

乱流塊の外縁を包絡線で結ぶとその領域は画像中2本の黒線で示すように楔状であり、ほぼ一定の広がり角を持っている。この点では乱流斑点の広がり方(付録1)と似ている。ただし、乱流塊の進行方向に対し前方の包絡線は一本の直線でほぼ表せるのに対し、後方の包絡線は一本の直線にはならず、R が大きくなるほどf の変化が小さくなる傾向にある。

乱流斑点は計測点を通過する前後でその流れ方向長さが2倍程度大きくなることが知られている(Cantwell et al.1978)が、この乱流塊も、例えばR =315を通過する前(t/T =0.264)と後(t/T =0.440)ではR 方向幅,f 方向幅共に2倍程度増加している。
 


動画1 R -f 平面における乱流域の時空間的発達

時刻はt/T =0.044間隔で0.044≦t/T ≦1.76の範囲を変化。

R ≧480の領域ではどの時刻においても乱れが比較的大きいが、これはC-F不安定によって自然発生した定在渦が乱流へと遷移しているためである。

t/T <0.132ではこの定在渦以外に<v ’>≧0.02となる領域は観察されないが、t/T =0.176になると層流中に孤立して存在する微小な局所乱流域が観察できる。

各時刻における乱流域の形状は概ね相似的であるが、二次元境界層中の乱流斑点のようなやじり型(Schubauer & Klebanoff 1955, 付録1)ではなく、三日月のような形状を有している。

三次元境界層中の乱流塊の形状は基本流の方向に強く依存することが予想されるが、回転円盤流の周方向速度成分はBlasius流とよく似ているから、特に横流れ速度成分の存在が三日月型乱流塊の形状決定に寄与しているものと思われる。横流れがあるため乱流塊は半径方向に拡大しても撹乱孔位置よりも内側の半径位置には到達しない。乱流斑点の場合は乱れのピーク領域が前縁近傍に集中する(Glezer et al. 1989) のに対し、この乱流塊は三日月のほぼ中央に乱れのピークを有する。


動画2 乱れ強度の集合平均値<v ’>のR -f 曲座標平面における等値線分布の時間発展