1.1 はじめに

回転系の流れは、通常の慣性系の流れでは見られない奇妙な振る舞いをすることが多いが、 そのような特徴の多くは回転系特有の波である Rossby 波の性質に起因する。 そして、その Rossby 波を記述する方程式が準地衡渦度方程式である。 この方程式はスカラー方程式で扱いやすいため、Rossby波や回転系の流れの性質を調べるために広く使われてきた。 しかし、当然ながら渦度方程式系は、もうひとつの波動である重力波を表現できない。

通常 Rossby 波と重力波は、その振動数が大きく異なるので、相互に影響を与えることはなく、 独立して考えることができる。 しかし、考えている領域が有限で水平方向に境界が存在すると、状況は一変する。 渦度方程式で記述できない重力波の一種である Kelvin 波が境界に沿って伝播できるようになり、 その振動数は Rossby 波の振動数と重なるため、Rossby波とKelvin波が相互に変換可能になる。

本論では、このようなRossby波とKelvin波の変換がどのように起こり、 結果としてどのような(渦度方程式系では起こりえない)現象が起こるか、浅水波方程式系の数値モデルで示すとともに、この性質が熱塩循環のような定常流の性質にも影響を与えることを示す。

図1:回転系の波の分散関係