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G. 静的安定度と熱力学変数との関係

本定式化では予報変数として温位を用いたため, 平均比熱の温度と組成に対する依存性は考慮されていない. 水素の比熱を基準温度(298.15 K)での値に固定したことにより, アンモニア凝縮高度付近において断熱温度減率の値に 20 % 程度のずれが生じる. しかし雲対流の循環構造の描像を描くという定性的目的においては, 雲層で期待される静的安定度 N2 の値がさほど違わないのであれば, 比熱の温度依存性を無視したことの影響は大きくはないのではないかと期待される.

N2 は温度の鉛直勾配と平均分子量の鉛直勾配が与えられれば, Sugiyama et al. (2006) [7] と同様に見積もることができる.

ここで T は温度, g は重力加速度である. M は平均分子量, cp は平均定圧比熱である.

木星の雲層領域における dT/dzdM/dz を偽湿潤断熱的変化として与えることで見積もった N2図 G.1 に示す. 図 G.1 中の実線はここで開発した雲対流モデルの熱力学計算ルーチンを用いて得た分布であり, 破線は平均比熱の温度・分子量依存性を考慮した Sugiyama et al. (2006) [7] の結果である.

図 G.1 より, これら 2 つの場合について, 安定成層の存在高度と N2 の最大値に大きな変化が無いことがわかる. したがって, 雲対流の循環構造の描像を描くという定性的目的においては, 比熱の温度依存性を無視しても問題ないと考えられる.

図 G.1: 静的安定度の鉛直分布. 木星大気組成を太陽組成 [9] と同様とした場合の結果を示す. 図中の実線は比熱を一定としたときの結果, 破線は比熱の値をより正確に扱った計算 [7] の結果である.


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