付録 D. 用いた積雲パラメタリゼーションの簡単な解説 [prev] [index] [next]

付録 D.2 湿潤対流調節スキーム

湿潤対流調節スキームはManabe et al (1965)による最初の大気大循環モデルに起源を持ち, 格子点変数で陽に表現される大規模大気運動の時間スケールと比較して 積乱雲の生成発達の時間スケールが短いこと, および, 積乱雲が大気上部を加熱し下部を冷却することに より鉛直成層が急速に安定化されることに注目したスキームである. 以下に概要を述べる. 実装の詳細についてはSWAMP Project (1998)に譲る.

  1. 対流雲の有無の判定:
    大気の温度構造が条件付き不安定であり水蒸気が飽和している格子点で湿潤対流が生じる.
  2. 対流雲がモデルの各格子点の変数に与える効果についての仮定:
    調節対象の各格子点の大気は, 水蒸気についてちょうど飽和の条件の下で, 瞬時に(実際には数値モデルの時間ステップの一つ分の時間に) 湿潤対流に対して中立の鉛直温度構造, すなわち湿潤断熱温度勾配になるように下層冷却, 上層加熱される. 温度の絶対値は調節過程の前後で鉛直積分したエネルギーが不変であるという条件により定まり, 同時に, 水蒸気の総凝結量も定まる. 凝結した水蒸気は降水として落下したと扱い, 系外に除去する.
  3. 上記の判定と調節は, 数値モデルの各点において, 隣り合う鉛直レベルの ペア毎に実行し, 不安定が存在しなくなるまで繰り返す.

上のように, 湿潤対流調節スキームにおいては, Kuo スキームと異なり, 結果として生じる加熱の水平分布,鉛直構造,および強度は, 格子点で解像された変数と陽に関係付けられておらず, たとえば wave-CISK 理論との対応性の存否は自明ではない. にもかかわらず, 例えば本研究の第4節に 見られるように, 湿潤対流調節スキームによって表現された加熱と 大規模な大気運動との間には, ある程度の対応関係が存在する. このことは, 熱帯大気が全般の鉛直構造を考察すると理解できる. すなわち, 熱帯大気は下層で比湿が大きく温位が低いので, 上昇流域では湿度が増加し温度が下がり, 水蒸気が飽和して 湿潤対流が生じやすくなる(仮定1). ただし, 加熱の鉛直構造は, 調節が行われる高度範囲が湿度に敏感であることと, 下層が冷却されることにより, 空間的非一様の強いものとなり, そのため, Kuo スキームを用いた場合と比べると, 結果として得られるモデル中の変数にも,特に 小さい空間スケールにおいて,強い変動を含む傾向がある.

 

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