付録 D. 用いた積雲パラメタリゼーションの簡単な解説 [prev] [index] [next]

付録 D. 用いた積雲パラメタリゼーションの簡単な解説

第一節の始めで述べたように,地球大気赤道域の降水活動は, 規模が大きいものから順に, Madden-Julian 振動, スーパークラスター, クラウドクラスター, 積乱雲 という構造に階層的に組織化されており (Houze and Betts, 1981; Nakazawa, 1988; Lindzen, 2003), それらの特徴的空間スケールは大まかに, Madden-Julian 振動が O(10,000km), スーパークラスターが O(1,000-10,000km), クラウドクラスター がO(100-1,000km), 積乱雲が O(1-10km)である. 一方, 今日の典型的な大気大循環数値モデルの空間解像度は O(100-1,000)km程度であるので, 上に列挙された降水活動の階層のうち積乱雲を陽に表現する事は明らかに不可能であり, クラウドクラスターの表現も困難である. しかし, 大気の熱収支,水収支における降水活動の重要性に鑑みれば, その効果を大循環数値モデリングにおいて無視する事は許容されない. そのため, 大循環モデルの出現と同時に, モデルで陽に表現される変数から何らかの仮定で降水活動の様相を診断し, その集団的効果が大循環モデルで表現されるスケールに与えるフィードバックを算出する方法, すなわち「積雲パラメタリゼーション」の実装と探求が始まり, 今日に至っている. 積雲パラメタリゼーションは, その目的において, 乱流の数値モデリングにおけるサブグリッドスケールプロセスのパラメタリゼーションに似ている. しかし, 流れの中での水の相変化が生じて有意な熱が出入りすること, 上記の様に複雑な階層構造を持った現象の効果を表現する必要があること等の事情のために, 体系的な一貫性を有しておらず多数の方法が併存している. また容易に予想できるように, 異なる積雲パラメタリゼーションを用いた大循環モデルの結果は有意に異なるが スキームの相互の優劣について合意し得る段階には至っていないのが現状である (APE; Blackburn and Hoskins, 2012ab; Nakajima et al, 2012 ).

本研究において用いた二つの積雲パラメタリゼーションスキームは, 大循環モデル開発の歴史の初期に開発された古典的なものである点が共通している. 一方, 両スキームの定式化の背景は大きく異なり, さらに, それらを導入した大循環モデルの振舞いは対照的であることがわかっており (Numaguti and Hayashi, 1991), それがこれらのスキームを本研究で用いた理由でもある.

以下に, 本論文の数値実験で用いられている二つの積雲パラメタリゼーションの概要を述べる.

1. Kuoスキーム

2. 湿潤対流調節スキーム

 

[prev] [index] [next]