4. 実験結果 (湿潤対流調節スキーム) [prev] [index] [next]

4.3 赤道域での降水と循環の時間変動

前節では, 湿潤対流調節スキームを用いた実験でも, 赤道上の降水活動の時空間構造が 放射冷却の鉛直構造の違いに対して系統的に応答していることを見た. ただし, その程度は kuo スキームを用いた実験に比べるとずっと弱い.

本節では, これらの格子点スケールの降水活動にともなう 循環構造とその時間変化を詳しく見るために, kuo スキームを用いた実験で行ったのと同様(3.3節), 時間分解能の高いデータ(2 時間間隔)を用い, 時系列並びに動画を通して調べる. 対象としては, 4つの実験のうち adj-a と adj-cを 下層を冷却した実験と上層を冷却した実験の代表として選び, 降水, 比湿, ならびに循環場に注目する.

上層冷却実験 (adj-c)

図4.6: 図3.6に同じ. ただし, 湿潤対流調節スキームの上層冷却実験 (実験 adj-c) の場合. (左) 赤道上経度時間断面図, 及び (右) 赤道上経度高度断面の時間発展 (右図をクリックすると動画が現れる). 左図, 右図ともに, 描画期間は 1000〜1015 日である. 上段は降水量 (単位は [kg m-2 s-1]), 中段は対流圏下層 (σ=0.83) 比湿の東西平均からの偏差 (単位は [kg/kg]), 下段は対流圏中層 (σ=0.55) 温度の東西平均からの偏差 (単位は [K]), 矢印は風速 (大きさは右下の矢印が [54m/s, 3.6x10^-6 1/s] に対応).
図4.7: 図4.6に同じ (右図をクリックすると動画が現れる). ただし, (上段右) 高度場の東西平均からの偏差の経度高度断面 (単位は [m]), (中段) 対流圏上層 (σ=0.23) 高度場の東西平均からの偏差 (単位は [m]), (下段) 地表面気圧の東西平均からの偏差 (単位は [Pa]), である. また, 中段右ならびに下段右は緯度経度断面 であり. 矢印は水平風速, 大きさは右下の矢印がそれぞれ, [34m/s, 34m/s], [17m/s, 17m/s] に対応する.

図4.6は上層冷却実験(adj-c)の赤道上での降水量, 水蒸気量, 温度, 風速場の 時間発展を表示したものである. Kuo スキームを用いた実験の場合 (図3.6)と同様, 格子点スケールの降水と直結した構造として 格子点スケールの強い上昇流が存在する(図.4.6右中, 右下; 動画). 上昇流強度は Kuo スキームを用いた場合 (図3.6動画) に比べかなり強い. その振る舞いも Kuo スキームを用いた実験におけるもの と様相がかなり異なる. 興味深い特徴は, 個々の格子点スケール降水イベントにともなう 鉛直流のライフサイクルが明瞭に存在することである. まず, 下層において比較的弱い上昇流が始まり, これが上向きに伸長すると同時に強度を増し, その後, 下層の鉛直流の符号が反転して下降流となり, 上層の上昇流も弱まって, 終了する.

湿度偏差でも, Kuo スキームを用いた実験と同様, 格子点スケールで西進する構造が卓越しており, その移動速度は格子点スケールの降水域の速度と対応している(図4.6中段). このことは, 温度偏差(図4.6下段)においては東進するシグナルも目立っている事と対照的である. 格子点スケール降水活動のライフサイクルは湿度偏差にも見ることができる (図4.6中段動画). 下層の上昇流は下層の湿度の高い領域で始まり, 上昇流の上向きの伸長とともに湿った領域が上向きに伸びていくが, 下層の下降流の出現と前後して, 下層に負の湿度偏差が出現する. 温度偏差の構造と時間変化(図4.6下段)は湿度よりも複雑に変動する. 格子点スケールの降水の最盛期には, 上層で正, 下層で負であるように見える.

図4.7は上層冷却実験(adj-c)の高度場と地表面気圧場の 赤道域での時間発展を表示したものである. 水平構造をみると, やはり, 格子点スケールの鉛直流に伴う激しい変動が目立つ. 対応して, 水平風偏差には, 上昇流に伴って下層では収束, 上層では発散が現れるように見える. しかし, 図4.7から赤道波動力学との対応を論じることは難しい (4.4節のコンポジット解析で論じる ことにする). 高度場と地表面気圧場の特色は, Kuo スキームを用いた実験と同様の, 惑星規模の空間スケールを持った変動の存在が明瞭になることである. 周期10日を超える大規模東進シグナル(特に波数1の偏差)が見られる (図4.7左中, 左下). 変動周期の長い惑星規模な偏差は, Kuo スキームを用いた実験に比べ認識が困難ではあるが, 東西風の卓越する赤道ケルビン波的な構造をなしているようである.

下層冷却実験(adj-a)

図4.8: 図4.6に同じ (右図をクリックすると動画が現れる). ただし, 湿潤対流調節スキームの下層冷却実験 (実験 adj-a).
図4.9: 図4.7に同じ (右図をクリックすると動画が現れる). ただし, 湿潤対流調節スキームの下層冷却実験 (実験 adj-a).

図4.7, 図4.8 は下層冷却実験 adj-a における, 赤道域での降水量, 水蒸気量, 温度, ならびに, 循環場の時間発展を表示したものである. 下層冷却実験 adj-a の結果には, 上昇流, 圧力, 風速などに見られる擾乱の振幅が 上層冷却実験 adj-c に見られる擾乱の振幅よnりもかなり小さいことを除けば, 上層冷却実験 adj-c の結果との定性的な違いは見られなかった. 湿潤対流調節スキームを用いた場合は, Kuo スキームを用いた実験とは異なり, 放射冷却鉛直分布の変更に対し赤道域の降水およびこれに伴う循環の構造に 強い応答を示さなかった. その理由としては, 放射冷却の鉛直構造の変化に対応した凝結加熱の鉛直構造の応答 (図3.1右 が, Kuo スキームを用いた実験 図4.1右)に比べると鈍いことに求められるかもしれない. たとえば, 湿潤対流調節を用いた上層冷却実験での 凝結加熱の上層と下層のコントラストは, Kuo スキームでのそれにくらべ, かなり弱く, 凝結加熱分布は下層冷却実験での分布と大きくは違っていない. 凝結加熱分布の応答が弱い原因はよくわかっていない.

 

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