4. 実験結果 (湿潤対流調節スキーム) [prev] [index] [next]

4.1 東西時間平均構造

湿潤対流調節スキームを用いた実験における, 赤道上の放射冷却率と凝結加熱率の鉛直分布, 及び降水量の東西時間平均図を示す.

放射冷却率, 凝結加熱率の鉛直分布

Kuo スキームを用いた実験についてと同様, 湿潤対流調節スキームを用いた場合についても, 降水構造の詳細を調べるのに先だって, 放射冷却パラメタの変更が, 期待される凝結加熱の鉛直分布をもたらしているか否かを確認する必要がある. 図4.1 は湿潤対流調節スキームを用いた実験における放射冷却率 (左図), および, 凝結加熱率 (右図) の東西時間平均を示している. Kuo スキームを用いた実験(図3.1)の傾向と同様に, 長波放射スキームの乾燥空気バンドの吸収係数を小さくすると, 対流圏上部での放射冷却率が大きくなっている. しかし, 凝結加熱率の高度分布の応答は, Kuo スキームを 用いた実験の場合と比べて鈍感である.

これらの実験のうち 対流圏下層で凝結加熱率の最大となる実験 adj-a(図4.1の赤線) を 下層冷却実験, 対流圏上層で凝結加熱率の最大となる実験 adj-c (図4.1の青線) を 上層冷却実験 と呼び, 後に詳細に比較検討する. なお, 実験 adj-d (水色線) は実験 adj-c (青線)よりもさらに凝結加熱が強いが, 降水の東西平均の緯度分布 (図4.3) からも示唆されている通り, Kuo スキームでの選択と同様, 平均循環場が他の実験と異なってしまっているので, adj-d を詳細な比較の対象として選択しなかった.

図4.1: 湿潤対流調節スキームを用いた実験での 赤道上における放射冷却率 (左図), 凝結加熱率 (右図) の時間東西平均 (単位は [K s-1]). 時間平均は 1000〜1700 日で行っている. 長波放射スキームの乾燥大気バンドの吸収係数は, adj-a (赤), adj-con (黒), adj-b (黄緑), adj-c (青), adj-d (水) の順に小さくしている.

赤道上の東西風

図4.2 は湿潤対流調節スキームを用いた実験の赤道上の 時間東西平均東西風の鉛直分布である. いずれの実験でも, 対流圏下部に強いシアーがあり, 大気凝結層下層に対応する高度2[km](σ=0.8)付近に風速最大が存在する. この高度での風速は上層冷却実験の方が下層冷却実験より強い.

図4.2: 湿潤対流調節スキームを用いた実験での 赤道上の東西風の時間東西平均 (単位は [m s-1]). 時間平均は 1000〜1700 日で行っている. 線の意味は図4.1 に同じ.

降水量

図4.3 は湿潤対流調節スキームを用いた実験の降水の東西平均の緯度分布である. Kuo スキームを用いた実験と異なり, 湿潤対流調節スキームを用いた全ての実験で降水量の最大値は赤道上に存在する (single ITCZ 構造).

長波放射スキームの乾燥空気バンドの吸収係数を小さくすると, 降水量は緯度 20 度付近で減少し, 赤道上に集中するようになる. この傾向は, Kuo スキームと同様である (図3.3).

特にadj-d 実験(水色線)では降水量の緯度分布の変化が大きく, これに伴う平均的大気循環の変化が非常に大きい. このことが, 実験 adj-d を adj-a と 対比しての詳細な比較の対象としては採用しなかった理由である.

図4.3: 湿潤対流調節スキームを用いた実験での 降水の東西時間平均の緯度分布 (単位は [kg m-2 s-1]). 時間平均は 1000〜1700 日で行っている. 線の意味は図4.1 に同じ.

 

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