はじめに 地球流体における「雲対流」 地球流体における「雲対流」 雲対流の基本プロセス

地球惑星の対流における相変化

地球・惑星流体では、さまざまな局面で鉛直対流が生じており、それぞれ重要な地学的役割を担っている。
例えば:

などがある。

こうした地球・惑星の鉛直対流は往々にして大きな温度・圧力領域に渡るため、 流体中で相変化が起こる場合がある。
例えば:

などである。すなわち、相変化は地球惑星対流の重要な共通要素である。

相変化は鉛直対流に通常の熱対流と異なる特徴を付与する。
相変化が対流の素過程に与える影響の主なものは:

である。 こうした効果のため、相変化は地球惑星対流の構造の多様性の源でもある。

従って、多様な地球惑星対流の振舞いを理解または予言するためには、
相変化によって対流の構造はどの様に変化するか
という問題を整理しておくことが重要であると思われる。


相変化対流の研究の問題点

今まで諸々の地球惑星対流は、別個の分野で互いに無関係に研究されてきた。
その理由は:

であろう。したがって、その結果を比較検討するのは困難である。

また、相変化の導入は理論においても数値計算においても種々の困難を持ち込むため、 相変化の導入は各分野における研究の順序としては後になった。そのため、 相変化の導入以前に既に設定も対流構造も複雑になっており、 相変化を導入したことによる影響は抽出しにくい。 例えば、Glatzmaier and Roberts(1996)は鉄の相変化を導入した地球中心核の対流 計算をしているが、相変化導入による対流構造の変化はほとんど読み取れない。 球面・回転・磁場のため、相変化を導入せずとも対流構造が複雑だからである。

以上二つの事情により、過去の研究を総合しても相変化が対流の構造に及ぼす影響を 体系的に整理するための情報は得にくい。


本研究の内容

相変化が対流の構造に及ぼす影響を体系的付けて整理するためには、 相変化以外の設定を優先して扱ってきたこれまでのアプローチとは逆に、

出来るだけ共通した単純な熱対流に近い設定 のもとで、
相変化の仕方だけによって対流の構造はどの様に異なるか を調べる

というアプローチが必須であると思われる。

本研究では、対流に対する相変化の影響を上のアプローチに沿って整理する第一段階として、 まず相変化が対流の素過程に及ぼす効果を簡単にまとめた後、各々の効果が特徴的に現れる いくつかの場合について数値実験を行ない、対流構造の比較を行なう。

具体的な内容は:

である。

本研究における数値実験の設定は、実は体系だったパラメタースタディーを構成するものではなく、 むしろ具体的な地球惑星対流に対応しているものである。 この選択の目的は、相変化パラメターを変えてみることによって種々の地球惑星対流が一つの枠組 の中に位置付けられることを実際に示す事にある。 もちろん、相変化の対流への影響を実際に体系的付けるためには、 相変化パラメタを一つ一つうごかしてみたときの対流構造の変化について、 さらには相変化パラメタの諸々の組合せについて網羅的に調べる必要がある。 その様なサーベイの実行と、その結果に基づく理論化は将来の課題である。


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