相変化を起こす
鉛直運動の向き
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地球大気の雲において水蒸気の凝結は上昇運動に伴って生じている。 しかしこれは実は自明なことではない。


飽和条件の決まり方

凝結が生じるには、凝結成分の分圧が飽和蒸気圧に達する必要がある。 そのためには、

のどちらかを生じさせねばならない。

鉛直対流問題においては、この二つは競合関係にある。 たとえば流体が断熱的に上昇する場合には:

の二つが競合する。このうちのどちらが勝つかによって、 凝結が上昇に伴って生じるか下降に伴って生じるかが定まる。

up-down.gif (119443 バイト)
図1:主成分比熱の違いよる凝結条件の違い。 定量的計算はこちら

この問題は McDonald(1964) が定量的に議論している。その結果 (詳細は付録を参照。) 要点は以下に整理できる。すなわち:

という事情があるので、凝結が上昇・下降のどちらで生じるかは凝結成分の潜熱と主成分の定圧比熱に 依存し、凝結は

で起こる。ただし、 LccpnRvT/RncpncLRn/RvT である。
[なお、Rn  は主成分の気体定数; Rv は凝結成分の気体定数; cpn は主成分の定圧比熱;L は凝結成分の凝結の潜熱(いずれも 単位質量あたり); T は温度である。]
凝結成分の蒸気圧曲線(従って L )を固定し、cpn を変えた場合の凝結条件の違いを図1に示す。

なお、上を変形すると凝結条件は、主成分のモル定圧比熱 Cpn = cpnR/Rn および凝結成分のモル凝結エントロピー Scond = LR/TRv [ R は普遍気体定数]を用いて、 ScondCpn なら上昇流で凝結、ScondCpn なら下降流 で凝結と書ける。


実際の地球惑星対流では?

表1:代表的凝結物質のモル凝結エントロピー。
物質 温度(K) Scond(J/mol K)
H2O 270 168
NH3 250 92
CH4 100 86

実際の惑星大気中の代表的な凝結成分について、もっともらしい温度での モル凝結エントロピーは表1の様になっている。 ( McDonald(1964)の数値には誤りがある。)

純物質のモル比熱は単原子分子で 5/2 R = 21、二原子分子で 7/2 R = 29 程度なので、主成分のモル定圧比熱は 20〜30 (J/mol K) 程度と考えられる。 表1のモル凝結エントロピーはこれよりずっと大きい。従って 地球の水蒸気雲を含め全てにおいて凝結は上昇流で生じることがわかる。

以上は下降運動に伴う相変化は形而上学的なものであると示唆しているかにみえる。 しかし、これはあくまで対流する流体が気体であると考えたからである。 もし作業流体が液体であれば、 圧力変化に伴う体積変化が小さく、断熱膨張・圧縮に伴う温度変化も小さいため、飽和蒸気圧の温度依存性の効果は相対的に重要でなくなり、 圧力変化による分圧変化の効果が勝つ ことになり、相変化(この場合は固化)は下降運動に伴って生じるであろう。 実際、地球中心核の液体部分(外核)においては下降運動 で鉄の固化が生じていると考えられている。


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