結論と議論 大陸プレートの影響により引き起こされるマントル対流の水平セルサイズ 対流セルの水平スケール (5) -地球への応用 大陸プレートの影響により引き起こされるマントル対流の水平セルサイズ
 

本研究では, 以前の研究で用いられていた大陸プレートよりも さらに横長なプレートがマントル対流に与える影響を, 特に対流の水平方向のセルサイズに注目して調べた.

対流の数値実験結果により, プレートの下から上昇しプレートのないところで下降する対流セルの 水平セルサイズに関して, レイリー数依存性が見出された. レイリー数が小さいときには プレートの端に上昇流が形成されるのに対して, レイリー数が大きくなるとセルが横長となり, プレートの中央に上昇流が形成される様子が示された.

この傾向を確かめるために, 大陸プレートがそもそも流体をどの程度温める効果をもつのかを 境界層理論によって推測し, 数値計算によりその正当性を確かめた. さらに, 鉛直対流としての水平速度とプレートの存在が与える 水平方向の温度差が引き起こす流れの水平速度を比較することで, 形成される対流セルの縦横比の限界を推測した. その結果は, 数値計算により得られた対流パターンと整合的であった.

しかしながら, ここで示した対流の水平スケールの理論は, 初期に発達するであろう鉛直対流を水平温度差による 対流が壊せるか否かを示しているだけであり, どの程度の水平スケールのセルが安定に形成されるかを 予測しているわけではないことに注意されたい. 対流セルの縦横比の限界の図に おいて示された, 限界の水平スケールまでの右下領域 (uh > u,u') の対流セルのなかで, どの水平スケールが選択されるかはわからない. 最終的に出現するであろう対流セルを予測するには, 大陸の端をまたぐ対流セルに対して, 例えばループモデル(Guillou and Jaupart 1995)や 境界層理論モデル(Turcotte and Schubert 1982)などを構築し, 熱輸送の効率の最も良い構造といった選択則を 用いて議論すべきである.

我々は対流の水平スケールの限界を見積もる際に, 純粋に鉛直の温度差のみで対流が生じる理想的な状況を考え, プレート下と外側の温度差を見積もった. このことは, 水平温度差で引き起こされる流れの大きさの 最大値を見積もっていることを意味するだろう. 水平温度差によって生じた流れも熱を運ぶので, 純粋な状況よりは水平温度差が小さくなる. この効果を考慮すると, 流れの振幅は我々の見積もりよりは小さくなり, 水平スケールの限界の線が下側へずれて限界の水平スケールが小さくなる. しかしながら, 図の限界線より上側の水平スケールの対流セルが 生じないという予測は変わらない.

我々の理論的な考察から推測されることを実際の地球に当てはめると, 全マントル対流の場合には大陸の端をまたぐ対流セルの上昇流が 超大陸の中央に生じうるのに対して, 上部マントル対流の場合には超大陸の端寄りにしか 上昇流が生じえないことになる.

大陸の周縁部に形成される上昇流として, 中国大陸東部に上昇流の存在が示唆されている (Miyashiro, 1986; Tatsumi, 1990). この上昇流の位置はアスペクト比 10 程度の横長な 対流セルを大陸境界に考えた場合の上昇流の位置に 相当する. しかしながら, 上昇流が形成されるまでの時間が長すぎること, 対流速度の振幅が弱すぎることから, この上昇流が本論文で示されるメカニズムにより 引き起こされている可能性は低いだろう.

ここで示した境界層理論に基づいた議論は レイリー数・プレートの水平方向の広がり・厚さに対しての 対流の性質の解析的な表現を与えており, これまでの研究の結果にみられる対流の定性的な性質を 表現していると期待される. 例えば Gurnis (1988), Lowman and Jarvis (1993) において 用いられていた条件 (Ra=105, L=1 to 3) を 対流セルの水平スケールの図に 当てはめてみると, 上昇流はプレートの中央に形成されうることが示される. 実際, 彼らの計算結果では プレートの中央から上昇流が生じており, 我々の結果と整合的である. ただし, 彼らの対流モデルでは 大陸プレートがその下に生じた対流によって移動するために, 形成される対流セルの大きさがどの程度であるかはっきりしない. このため対流セルの大きさについて 本研究の結果と比較することが出来ない. Lowman and Jarvis (1996) では, 上部マントル対流および全マントル対流の状況で 横長な大陸の影響を考察している. そこでは, 全マントル対流の状況では大陸中央から上昇流が生じるが, 上部マントル対流の状況ではそのような上昇流の形成が見られない. この結果は上での議論と整合的であるが, 彼らのモデルには海洋プレートを想定した 剛体的に動く領域が領域表面に設定されており, 我々の理論をそのまま適用するには検討が必要である.

本研究で行った数値計算や理論的考察の設定は, 実際の地球のマントル対流に適用するものとしては かなり簡略化してある. 結果に影響を与えると考えられる 本研究で考慮しなかった重要な点を 最後にいくつかあげておく. しかしながら, われわれの結果は, より現実的な対流計算の結果を理解する上で 基本的な洞察を与えることになると期待する.

大陸プレートとマントルの境界は本来粘着条件を与えるべきである. その場合, プレートの下での流れは Free-slip の場合よりも 遅くなると考えられる. そのため, Free-slip 条件を用いる場合と比較して, 粘着条件を与えた場合には熱境界層が厚く, さらにはプレートの下の温度が高くなり, より横長な対流セルを形成する可能性がある. 放射性元素による内部発熱の影響も考察すべき要素である. 大陸プレートにの濃集している熱源が マントルを温める効果をもつとき, 形成される対流セルはより大きくなるかも知れない. さらには大陸が移動して行く場合, 粘性の温度依存性, 相変化といった より複雑な効果も考慮すべきものとしてあげられる.


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