1. はじめに

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浸透流,すなわち多孔性媒質中の流体の流れは,地学,工学の様々な分野にわたる重要かつ基本的な研究テーマのひとつである.媒質中の流れはミクロに見れば非常に複雑に変動しているが,マクロにみて一様な層流として扱える場合,非圧縮であれば(平均の)流速と圧力の間にダルシーの法則が成立し,透水係数が一定である場合は流速と圧力勾配が比例して,一様,単純な条件のもとでは一様,単純な流れしか現れない.

しかし,一般に流体の粘性率は温度に大きく依存する(付1)(たとえば水の粘性率は0℃で1.792×10-3Pa・s ,100℃で0.282×10-3Pa・s であり,マントル物質などではさらに温度依存性が大きくなる)ため,実際の流れ一般では透水係数が相当に変化することが少なくない.

これまで,温度依存性粘性率を持つ流体の流れモデルは,割れ目噴火の際のマグマの挙動を説明するものとして,弾力的な液溜りから流れ出るモデル[Whitehead and Helfrich(1991)],圧力差を一定とした二次元モデル[Wylie and Lister(1995)Wylie et al.(1999)]などが提出されている.噴火現象のダイナミクスの再現と理解を主眼としたこれらのモデルは,粘性率の温度依存性以外に,実際の割れ目噴火の機構として想定される液溜りや二次元的な構造といったような要素を含んでおり,温度依存性粘性率が流れに及ぼす影響を端的にとらえるためにはよりシンプルなモデルで流れの性質を調べる必要がある.

本論文では,高温の流体が冷却されながら流れる場合について,粘性率の温度依存性によって現れる流れの最も基本的な性質を理解することを目的として,まず単純な一次元の流れモデルを扱い,その流速と圧力差との関係に注目する.次に,より複雑なモデルを扱うことを目標として一次元モデルを並列につないだ場合を考え,2本つないだモデル,3本つないだモデルについて議論し,そこでの流れの振る舞いについての法則を導く.最後にn本つないだ場合について法則の一般化を行い,温度依存性粘性率を持つ流体の一次元流れの特性を明らかにする.


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