粉体層上の動摩擦係数測定実験とその流体力学的考察

岩屑なだれの物理モデル

これまでに岩屑なだれの物理モデルは数多く提案されているが、ここではShaller and Smith-Shaller(1996)(以下SSと略す)の分類を元に幾つかのモデルを紹介する。

SSは、普遍的な特徴を説明しようとしているモデルを、

  1. Bulk Fluidization Model
  2. Basal Lublication Model
  3. Mass Loss Model

 のいずれかに分類した。

Bulk Fluidization Model

Bulk Fluidization Model(流れモデル)に分類されるモデルは、岩屑なだれを構成する粒子が、流体中の分子のように振舞うことにより、岩屑なだれ全体を流体のように振舞わせている、と考えるものである。

Hsü(1975)は、岩屑なだれがBagnold(1954)の"grain flow"の考えに基づき、流動のメカニズムを提案した。grain flowとは、凝縮力のない粒子の集合体が流体中に中立に浮遊しており、全体の運動が、間隙流体の流れよりも、微粒子同士の衝突によって支配されているような流れである。Hsüは間隙流体として、粉々になった岩片の埃を考えており、これらが堆積物中のマトリックスであるとしている。

Davies(1982)も、Bagnold (1954)のgrain flow理論に基づき、岩屑なだれは下部の強い剪断応力の為に破砕・流動化(mechanical fluidization)するとした。mechanical fluidizationとは、 粒状体の物質に大きいエネルギーが与えられることによって、個々の構成粒子が反発しあい、統計的に分離し全体が膨張することである。また、流動化した岩屑なだれが堆積する際、体積に応じて広がることが、ボリューム効果の原因だとした。

Melosh(1979)の、音響学的流動化(acoustic fluidization)モデルは、破砕物中に生じた音場が、岩片同士の接触による摩擦を減少させるというものである。

Basal Lublication Model

2つ目のカテゴリはBasal Lublication Model(滑りモデル)である。このカ テゴリに分類されるモデルは、見かけ上の摩擦係数の低さを説明する為に、岩塊の下に低摩擦層が存在するとするものである。

Shreve(1968a,b)は、崩落し地面を高速で滑走する岩塊が、地面の隆起などでジャンプした際、底面に取り込んだ空気に支えられ、 地面からの接触抵抗を受けることなく滑るとするair-layer lubrication (air cushion) モデルを提唱した。

Mass Loss Model

Mass Loss Modelに分類されるモデルは、低速度の質量を先に堆積させることによる「多段式ロケット」のような効果が見かけ摩擦係数の低さの原因であるとするものである。Van Gassen and Cruden(1989)のモデルがこのカテゴリに分類される。このモデルは、上記の2つのカテゴリと異なり、流走しながら堆積していくとするのが大きな特徴である。

また、この他にも、岩屑なだれはビンガム流体的に振る舞い、剛体的に振る舞う部分(plug)が、地表面との剪断応力によって流体的に振る舞う部分(剪断領域層)の上に乗って流れるとするビンガム流体モデル(Voight et al.,1983;他)や、粉体層の存在によって生ずる動力学的機構が動摩擦係数を低下させるいう底部境界波モデル(Kobayashi, 1994)などがある。