1. はじめに |
大気や海洋の大規模運動は, 地球の自転効果や重力による密度成層効果をうけ て準水平2次元的である. 地球惑星流体力学においては, 2次元の流体という枠 組みがある程度の具体性をもっている.
2次元流体における乱流の大きな特徴として, 減衰性乱流(初期にエネルギーを与え, 後は散逸以外の外力を加えない) では, ランダムな初期場から秩序渦が自発的に形成されることが挙げら れる(McWilliams, 1984).
しかし, これは系の回転が無い場合の話であり, 惑星自転の効果を考慮する と時間発展は大きく異なる. β平面(惑星自転の緯度依存性を取り込んだ平面)領域での2次元 乱流実験はRhines(1975)によって行われ, 東西にのびた帯状縞構造が出現することが認識された. さらに, より惑星大気を意識した回転球面領域での 強制乱流実験(ある波数帯にエネルギーを注入し続ける)の数値実験も (流れ場に南北対称性や波数8対称性のような強い制約のあるモデルだが) Williams(1978)によって行われ, 球面上でも 縞状構造が現れることが明らかとなった.
球面全域を覆う高分解能の数値計算は, まず減衰性乱流について Yoden and Yamada(1993)によって行われ, 惑星自転が十分速い場合に東風周極渦が自発的に形成されることが 発見された. また, 強制乱流についても Nozawa and Yoden(1997) によって高分解能実験が行われ, 回転球面上の2次元強制乱流における 帯状縞構造の形成が確認された.
ここまで紹介した研究は, 2次元非発散系を扱ったものだが, 最近では, さらに系の発散効果も取り込んだ浅水方程式系での減衰性乱流 実験もCho and Polvani(1996) によって行われており, 浅水系では, 減衰性乱流からも帯状縞構造が出現することなどが指摘された. Yoden and Yamada(1993)の非発散系 減衰性乱流実験でも帯状縞構造は出現していたのだが, 現在の計算機環境 から見ると, 数値計算の分解能や初期値の与え方などに若干の不満があるため, 減衰性乱流からも帯状縞構造が自発的に出現することを明確に主張するためには, 新たな実験を行うことが望まれる.
本研究では, 以上の背景を踏まえ, 超高分解能で回転球面上の2次元減衰性 乱流実験を行い, 初期値や球自転角速度等のパラメターを詳細にふることに より, 減衰性乱流からの帯状縞構造や東風周極渦などの独特のパターンが 出現する条件を詳細に検討する. なお, 本研究では 石岡(1999) の数値コードを用いることにより, 球面調和関数の全波数 682 までの解像度で実験を行っている. これは, 我々の知る限り現時点で世界最高分解能の球面2次元計算である.
本論文の構成は以下のとおりである.
第2節では, 用いたモデル方程式と数値計算法の説明を行う.
第3節では, 減衰性乱流の時間発展の結果と, それに関する様々な解析結果を示す.
第4節では, 考察とまとめを述べる.
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