7. まとめ

TI2006 の議論を拡張し, 赤道β平面浅水系の線形シアー流中で発生する 最大不安定モード以外の不安定モードに対する 解釈を与え, 連続モードおよび中立モードの振る舞い に関する考察を加えた. 得られた結果は以下の通りである.

  1. 位相速度 c が 0 ≤ c ≤ 2.5 である連続モードは赤道ロスビー波モード的な水平構造を持つ. この結果は, TI2006 で示唆された "連続モードに同化したロスビーモード" の存在を支持している. よって, 赤道β平面上のシアー流中では, ロスビー波モードは連続モードに同化した形で存在すると考えられる.
  2. 東西対称な構造を持つ不安定モードをもたらす共鳴するモードの組み合せは, 以下の通りである.

    ここで, n は不安定モードの構造を表現するエルミート多項式の次数である. 最低次(n=0)の不安定モードはいわゆる慣性不安定モードであるが, 高次(n≥1)の東西対称不安定モードは慣性不安定とは異なる種類の不安定モードと考えられる.

  3. TI2006 で見られた「交差モード」は, 慣性不安定領域の外側の領域で大きな振幅を持ち, 慣性不安定領域の外側に計算領域が存在すると発生することがわかった. 交差モードは東進重力波モード(あるいは西進重力波モード)的な構造を持っている. これらのモードは, 赤道波でなく, むしろ中緯度β平面上の水路中の重力波ととらえた方が良いのかもしれない.
  4. TI2006 に比べ狭い計算領域を用いた場合について, 連続モードと赤道ケルビン波モードとの共鳴による不安定モードと, 西進混合ロスビー重力波モードの分散曲線の位置と形状を確認した. 連続モードと赤道ケルビン波モードとの共鳴によって発生する不安定モードの分散曲線は, E が増加するに従い c=2.5 に漸近すること, 西進混合ロスビー重力波モードの分散曲線と交差を起こす前に折れ曲がること, が観察された. この結果は TI2006 の予想を支持するものである.

上記の結果 (3) で論じた分散曲線の交差と似たものが 金星大気を想定した条件下で不安定モードを求めた Iga and Matsuda (2005) の結果でも 見られる. 彼らが得た分散曲線図 ( Iga and Matsuda (2005) の Fig.14) においても, 重力波モードの分散曲線に重なって 交差を起こす分散曲線が存在している. これらは, 本論文で得られた交差モードに対応すると 想像される. Iga and Matsuda (2005) が得た 分散曲線が交差を起こすモードは, 中緯度の重力波的な 構造を持つのであろう.

上記の結果 (2) は, 中緯度の f平面系においても 最低次の慣性不安定モードと高次の不安定モードとは別種の 不安定であることを示唆する. f平面においては, 最低次の不安定モードは 東進慣性重力波モードと西進慣性重力波モードとの共鳴によりもたらされ, 高次の不安定モードは 東進慣性重力波モードと連続モードとの共鳴により, もたらされると想像される. 本論文では扱わなかったけれども, f平面で我々と同様の調査を行えば, これらの想像を確認することができるであろう.

7. まとめ