6.3 $ Ta$と平均流加速の間の関係

$ Ta=3\times 10^4$の場合の方が$ Ta=10^5$の場合よりも平均流の加速が大きくなる要因について考察する。図39と図40にロール状対流の$ y$-$ z$断面を示したが、その各断面での鉛直流速$ w$の絶対値の最大値を表1に示した。これを見ると、先程述べた$ Ta=3\times 10^4$の場合のロールの流速の局在だけでなく、$ 5<x<10$の領域のロールの鉛直流に比べて$ 0<x<5$の領域のロールの鉛直流の方が強いことが分かる。これは齊藤 & 石岡(2008)[5]でも述べられているように、$ 0<x<5$の領域の方が$ 5<x<10$の領域よりも慣性的に安定性が低いためと考えられる。実際、$ 0<x<5$の領域のロールの鉛直流速に対する$ 5<x<10$の領域のロールの鉛直流速の比は$ Ta=10^5$の場合よりも$ Ta=3\times 10^4$の場合の方が小さい(表1の括弧内の数字)。これは、$ Ta=3\times 10^4$の場合の方が$ Ta=10^5$の場合よりも系の回転が弱いため平均流の水平シアの影響を強く受けるためと考えられる。



表1: 固有モードの流速場の$ {y}$-$ {z}$断面における鉛直流速$ {w}$の絶対値の最大値($ {x=0}$での値を1に規格化)。$ {5<x<10}$の側の断面の括弧内の数字は、その断面での鉛直流速の、$ {x=0}$に関して対称な位置($ {0<x<5}$の領域)の断面での鉛直流速に対する比である。
$ x$ $ {Ta=10^5}$ $ {Ta=3\times 10^4}$
8.438 0.317 (0.800) 0.098 (0.715)
9.219 0.750 (0.951) 0.566 (0.871)
0.000 1.000 1.000
0.781 0.789 0.650
1.562 0.396 0.137



このように$ 0<x<5$側のロールの鉛直流が強く、さらにロールの軸は回転軸に沿うように傾いているため、擾乱による熱輸送が生成する上下の浮力偏差は、上側の偏差の方が下側の偏差よりも大きくなる(図42(左))。この様子は図31($ Ta=3\times 10^4$の場合は図33)の一番上の図で確認できる(上側の浮力偏差の方が等温線の本数が1本多い)。もし上下の浮力偏差の大きさが全く同じであるならば、それらによって生成される二次的な鉛直流の和の鉛直平均を表す図28($ Ta=3\times 10^4$の場合は図30)の青線の形は原点に関して点対称になるはずである。しかし、上側の浮力偏差の方が大きくなると、二次的な鉛直流への寄与も上側の浮力偏差の方が大きく(図42(右))、$ x=0$における$ \langle \overline{w}^{\,(2)}\rangle $は正となり、青線の位相は原点対称な位置から右($ x$の正)方向にずれる。図28と図30の青線を見比べると、$ 0<x<5$側のロールの鉛直流が$ Ta=10^5$の場合よりも強く上側の浮力偏差がより大きい$ Ta=3\times 10^4$の場合の方が、青線の正のピークがより$ x=0$に近い。このことが$ Ta=10^5$の場合と$ Ta=3\times 10^4$の場合の平均流の加速の差に効くと考えられる。

図42: ロール状対流の軸の傾きと回転の強さの違いによる、
上下の浮力偏差の強弱と鉛直流の生成に関する概念図
\includegraphics[scale=.65]{img2/app_fig2-2.eps} \includegraphics[scale=.65]{img2/app_fig2-3.eps}


SAITO Naoaki
2009-07-09