重力分離によって凝結物が除去されると 「条件付き不安定」「潜在不安定」という非線形性が生じる。
図 3: 上:絶対不安定
中:絶対安定
下:条件付不安定
黄:基本場の温度構造
赤:湿潤断熱勾配
緑:乾燥断熱勾配相変化を伴わない場合、対流不安定の条件は鉛直温度勾配が断熱温度勾配より 大きいことである。 雲対流ではこれが変形を受ける(簡単のために、凝結成分の分子量効果・凝結物の重さは無視。)。
変形のされかたは、凝結物の重力分離の有無に依存する。すなわち:
- 凝結物の重力分離が無い場合は、
凝結の潜熱の出入りのために、断熱勾配として「湿潤断熱勾配」を用いる以外は、相変化の無い対流と同じである。- 凝結物が重力分離がある場合は、
上昇・下降の「断熱勾配」が異なる(上昇は湿潤断熱勾配、下降は乾燥断熱勾配) ので、同じ基本場において上昇・下降変位に対する安定度が違うという状況があり得る。 すなわち鉛直流の符号により局所的な安定度が異なる状況が生じ得る。
である。
上の事情により、重力分離がある場合の基本場温度構造の対流安定性はの3つに区分される。
すなわち:
- 絶対不安定[図3(上)]:
基本場の温度勾配が乾燥断熱勾配よりも大である状態。
この場合、上昇流は周囲より高温、下降流は周囲より低温なので、 ともに対流を駆動するから、まちがいなく対流不安定である。- 絶対安定[図3(中)]:
基本場の温度勾配が湿潤断熱勾配よりも小である状態。
この場合、上昇流は周囲より低温であり、下降流は周囲より高温なので、 ともに対流を抑制し、まちがいなく対流安定である。- 条件付不安定[図3(下)]:
基本場の温度勾配が湿潤断熱勾配と乾燥断熱勾配の間である状態。
この場合、上昇流は周囲より高温であり対流を駆動するが、
下降流は周囲より高温であり対流を抑制する。
この場合の安定性は、擾乱の構造に依存する。である。
地球大気の対流圏の相当広い領域は, 「条件付き不安定」である。
条件付不安定な状態では、後に見るように、 擾乱は強く狭い上昇流と広く弱い下降流の組み合わせとなる。 これは、上昇流の対流駆動を最大化し、下降流の対流抑制を最小化する、という要請の結果として 理解できる。
凝結物の重力分離により、大気は不飽和状態に保たれる。
しかるに、そもそもパーセルの中で凝結が生じるためには、 パーセルは飽和していなければならない。基本場が条件付不安定かつ不飽和ならば、パーセルの上昇が:
- 微小振幅だと、不飽和のままで凝結が生じず、対流は成長しない。
- 有限振幅だと、飽和に達して凝結が始まり対流が成長する。
となり、振幅により switch on/off の非線形 が存在することがわかる。これを「潜在不安定」とよぶ。
地球大気の熱帯対流圏の相当広い領域は, 潜在不安定である。
そのため、対流雲の生成には有限振幅の引金が必要である。この事情によって、
- 対流雲群の自己組織化
- 大規模な大気波動と対流雲群の相互作用
が起こり得る。