特集 ながれの電子出版について/城之内 忠正

3.電子論文の必要条件

ながれではマルチメディア論文というCD-ROM出版を試行しています.Web出版されたものをCD-ROMに掲載するのですが,意味としてはWeb出版に近いものになっています.マルチメディア論文は紙の論文と比較すると表現は豊かですが,いくつかの欠点がわかります.

最終的な読みやすさといういう意味では,紙メディアの方が読みやすいと誰もが認めるところでしょう.さて,このよう特徴と従来の紙論文の果たした役割を考えると,電子論文にも以下のような条件が必要だと思います.

「永続性」は,災害などに遇っても論文が残されて継承されるという意味です.紙の場合はコピーが配布されますから,どこかの図書館にコピーが残っているはずです.デジタルデータは何回コピーしても劣化しませんから,データのコピーを分散させれば,永続性は確保できます.

「名前の一意性」は,長い将来にわたって論文を一意に引用できるという意味ですが,Web出版では論文の住所に相当するURLが不変であることが求められます.リンクで引用しても,リンク切れにならないことです.

「誰でも容易に書ける」ということは,流体力学の専門家に,論文を書くために電子出版関係の知識を要求しないということです.その時代の人の常識的な文書作成能力・技量で,論文を作成できるようにという意味です.

「誰でも容易に読める」ということは,紙のように誰でもすぐ読めることが望ましいという意味です.何か特殊なソフトや器材が必要だと読者を制限してしまい,文化の普及という意味ではマイナスとなってしまいます.

「編集と流通」はメディアの条件であり,文化はメディアによって流通し,発展してきたわけです.そしてデジタル情報は,流通と編集こそ,最も得意とするところです.

電子出版は利用時間の制限が無く,紙数の制限も無い等,様々な利点がありますが,紙の出版を置き換える場合には,従来の出版が果たした役割を果たさなければならないと思います.