5. 結論 |
成層圏の冬季周極渦周辺における物質混合および輸送障壁について、 球面上の2次元順圧モデルを用いてカオス的混合の観点から調べた。モデルは強制散逸系で、順圧不安定となるジェットを強制として与えた。あるパラメータ領域では十分時間が経過したのちのバランスした状態で準周期的に時間変化する流れが得られるが、そこでの流体粒子の混合の特質について、ラグランジュ的な手法を用いて調べた。パラメータをわずかに変えて得られる非周期流についても、準周期流との比較をしながら調べた。準周期流の中では典型的なカオス的混合がおこっていて、 極渦の外側、あるいは内側でも、効率的な混合がおこっていることがわかった(ムービー1)。極渦についての過去の研究(e.g. Bowman and Chen 1994)でも述べられているように、 混合過程は正のリアプノフ指数で量的に特徴づけられ (図3)、PVの勾配が強い極渦の縁付近に輸送の障壁が見られた。 しかし極渦の内側には、 そのようなPVの大きな勾配に関係付けられない輸送障壁もあった。 これらの混合領域および輸送障壁はポアンカレ断面図(図4)により正確な位置を特定することができた。
また、準周期解で得られた特徴は、 弱い非周期性を持った流れでも見られた(ムービー2)。 極渦の中心付近には孤立領域が存在しており、それはムービー3のような 追加の実験でも確かめられた。 これは準周期流でのポアンカレ断面図で見られた 不変トーラスで説明することができるものである。また 非周期流での相関次元はよりカオス的混合に特徴的な時間発展をしていた (図5)。
類似した極渦内の孤立構造はPierrehumbert (1991)の運動学的な研究でも 見られているが、 われわれの結果は、渦度方程式の解として数値的に得られた、力学的に矛盾のない流れの中で得られたものである。準周期解でのカオス的混合は、 この強制散逸系でPVが厳密には保存されていないために可能になっている。 また球面というジオメトリーにより南北に非対称性が出て、 孤立した構造は極渦の内側に限られている。