6.まとめ  

デジタルビデオを使用して,ミルククラウンを撮影し,クラウンの直径及び高さに注目して画像解析を行い,結果を検証した.

クラウンの直径は,液滴の衝突速度,流体の深さ,粘性によらず,経過時間の1/4乗に比例し,クラウン消滅後の痕跡の半径は時間の1/2乗に比例するという結果を得た.これまで 主として考えられてきたような,経過時間の1/2乗に比例して広がる表面張力波と見なすことのできる領域は,クラウン消滅後の痕跡だけであった.

本研究で行った実験は,これまで行われてきた研究に比べ,衝突する液滴の粒径や流体の深さが異なっている.(具体的には,本実験はたとえば Yarin and Weiss (1995) と比べると,衝突速度は1桁以上小さく,衝突する液滴の半径はおよそ1桁以上大きい。)これまでの研究との相違は,このスケールの違いによる可能性がある.このことは,表面張力波としての近似に限界があることを示唆している.

ミルククラウンの上端のリングにかかる鉛直方向の加速度は,重力加速度の10数倍程度であり,表面張力は,この加速度を生じるのに十分である.従って,ミルククラウンでは,表面張力が支配的である事は明らかである.

実験では,鉛直方向の運動に注目すると,クラウンの上昇時に比べ,下降時で加速度が遅くなるという結果を得た.このことは, 体積のバランスと,表面張力を復元力としたリングの運動を考えることで,十分説明することができる.下降時に加速度が小さくなるのは,クラウンの崩壊によりリングの質量が増加するためである.

現在,ミルククラウンの数値シミュレーションが,DNSやCIPなどのさまざまな方法で試みられている.これまでのシミ ュレーションでは,流体の表面の形状が実際に見られるミルククラウンと異なっているところが見られる.これらシミュレーションで ,表面張力が実際よりも弱く,クラウンを形成してから消滅する時間スケールが長くなっているものが多い.例えば 張,島田,中川,矢部 (2000)は, 表面張力の含め方が弱いため,液滴が衝突してから突起が形成されるまでの時間が,本実験で得られた結果と比較して,およそ1桁程度遅い.実験で見られるようなミルククラウンを再現するためには,相応の表面張力を含めなければならないだろう.