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3.2 計算結果 (1): 鉛直運動と大気構造

図 3.2 に計算終了時付近での雲の分布, 鉛直速度, 凝結性成分気体の分布, 温位の水平平均からのずれを示す. 以下では簡単のために雲と雨をま とめて扱う. 例えば, 雲と雨の混合比の和をまとめて雲混合比と呼ぶ ことにする.

図 3.2 (a) には, H2O 凝結高度付近 (z ≈ 120 km) から対流圏界面 (z = 200 km) まで発達する雲が多数見られる. 活発な対流運動が生じている領域において, 黄色で表される H2O と NH4SH の雲粒が共存した雲や, 白色で表される 3 種類の雲粒が共存した雲が分布する. このことは, H2O の雲粒は NH4SH 生成高度 (z ≈ 150 km) と NH3 凝結高度 (z ≈ 180 km) を超えて上空まで移流され, NH4SH の雲粒は NH3 凝結高度を超えて上空まで移流されることを示している.

鉛直速度の分布は, H2O 凝結高度の上下で明瞭に異る (図 3.2 b). H2O 凝結高度より下では定常的な上昇流と下降流が存在するのに対し, H2O 凝結高度から対流圏界面の間での鉛直運動は非定常的である. また, H2O 凝結高度の下の上昇流と H2O 凝結高度の上の上昇流は接続していない. 下降流についても同様の不連続性が見られる. 一方, NH3 凝結高度と NH4SH 生成高度においては, 対流構造の不連続性は見られない. H2O 凝結高度より上で生じる強い鉛直流は, NH3 凝結高度と NH4SH 生成高度をつき抜けて対流圏界面まで達している.

凝結成分気体の分布もまた H2O 凝結高度を境にはっきり異っている(図 3.2 c). H2O 凝結高度より下では, 図中で灰色で示される様に 3 種類の凝結性成分がほぼ一様に分布するが, H2O 凝結高度から対流圏界面の間では, 凝結成分気体の混合比は非一様である. いくつかの領域で, 3 種類いずれの凝結成分気体も含まない空気塊(黒色で示される)が, NH3 凝結高度と NH4SH 生成高度をつき抜けて, 対流圏界面から H2O 凝結高度の直上まで下降している.

図 3.2 (b, c) の特徴は, 運動学的および物質分布的にみて, H2O 凝結高度は明瞭な境界となっているが, NH3 凝結高度および NH4SH 生成高度は明瞭な境界となっていない, とまとめることができる. この結果は, NH3 凝結高度および NH4SH 生成高度でも対流運動の分割が生じるかもしれないとした我々の予想 (第 1 節参照) とは異なり, H2O の凝結のみを考慮した従来の研究 [6] の結果と類似している.

温位の水平平均からの偏差を図 3.2 (d) に示す. H2O 凝結高度から対流圏界面において, 雲の存在する領域は周囲に比べて温位が高い. H2O 凝結高度より下は, 雲からの降水が再蒸発することで形成される負の温位偏差を除くと, ほぼ等温位である.

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図 3.2: 対流活動のアニメーション. 雲の分布 (a), 鉛直速度 (b), 凝結性成分気体の分布 (c), 温位の水平平均からのずれ (d)を, 1.0 × 106 -- 1.08 × 106 秒の範囲を 400 秒間隔で示す. 雲の分布は 1.0 × 10-8 -- 5.0 × 10-4 kg/kg の範囲で対数的に表示した. 蒸気の分布は初期値で規格化し, 線型的に表示した. 雲と蒸気の可視化方法は第 2.3 節を参照のこと.

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