1. 背景と目的

3 次元灰色大気構造の太陽定数依存性と暴走温室状態 3 次元灰色大気構造の太陽定数依存性と暴走温室状態 1.b. 暴走温室状態に関する過去の研究

a. 研究の背景

1 次元の大気モデルにおいては, 大気に入射するエネルギーフラックス がある臨界値を超えると大気海洋系の平衡解が存在しなくなることが知 られている. 臨界値を超えたエネルギーフラックスが大気に入射したとすると大気の 温度は上昇を続けていくもの想像される. このような状況のことを暴走温室状態と呼ぶ. 以下に述べるように, 暴走温室状態の発生は 地球型惑星の大気海洋の形成・進化においては 重要なイベントであったと考えらている.

地球型惑星の形成期には, 激しい微惑星衝突のため水蒸気などの揮発性成分が 脱ガスし原始大気が存在していた(Abe and Matsui, 1985 など). Abe and Matsui (1988) は1 次元放射対流平衡モデルを用いて原始大気 の構造を求めた. 彼らは, 太陽放射及び微惑星衝突によって大気に供給される エネルギー量を考慮し, 1 次元放射対流平衡モデルを用いた 大気構造の計算を行った. その結果, 微惑星の集積によるエネルギーフラックスが 300 W/m2 を超えると海洋は存在できず H2O はすべて水蒸気の形で大気に存在する ことが示された. この状態が暴走温室状態に対応するものである. この結果をもとに原始大気・海洋は次のようなプロセスを通じて形成さ れたと考えられる. 多量の水蒸気が大気中に存在するため, 大気は光学的に厚くなり表面温 度は 1500 K まで上昇する. 表面温度がこれだけ上昇すると表面の岩石は融解しマグマの海: マグマ オーシャンが形成される. マグマオーシャンに大気中の水蒸気が溶解することにより大気中の水蒸 気量は調節され, ほぼ一定値 1021 Kg に落ち着く. この値は現在の海洋質量にほぼ等しい. その後, 微惑星の集積によるエネルギーフラックスが減少すると大気中 の水蒸気は凝結し海洋が形成された.


1.a. 研究の背景 3 次元灰色大気構造の太陽定数依存性と暴走温室状態 3 次元灰色大気構造の太陽定数依存性と暴走温室状態 1.b. 暴走温室状態に関する過去の研究