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3 次元灰色大気構造の
太陽定数依存性と暴走温室状態

石渡 正樹(北大地球環境) ・ 中島 健介(九大理) ・ 竹広 真一(九大理) ・ 林 祥介(東大数理)

簡単な水文過程を含んだ大気大循環モデル(GCM)を用いて 3 次元灰色大気において暴走温室状態が発生する太陽定数の決定と暴走温 室状態の数値計算を行った. 大気中の吸収物質は水蒸気だけであるとし, 太陽放射に対しては透明, 長波放射に対しては灰色とした. このモデルは, 暴走温室状態を定義した Nakajima et al. (1992) の1 次元放射対流平衡モデルに運動を組み込んだ系である.

太陽定数を様々に与え, 1000 日程度の時間積分を行なった. 太陽定数が 1600 W/m2 以下の場合には大気の熱的構造は 500 日程度で十 分に統計的平衡状態に達した. しかし, 太陽定数が 1600 W/m2 を越えると大気は熱的に暴走をはじめ た. 外向き長波放射 (OLR) は入射エネルギーフラッ クスに追従できなくなり, 水蒸気量および大気量が増大, 大気温度と地 表面温度は上昇を続けた.

太陽定数が増大すると, 水蒸気分布, 温度分布の南北コントラストが減少し, 放射の構造が一様化に向かう. この結果として, 熱的な暴走状態が発生する太陽定数は, 相対湿度を 60 % に固定して Nakajima et al. (1992) のモデルで得られる放射 量の上限値に一致する. この 60 % という値は, 3 次元計算で得られた対流圏相対湿度の平均値 である. 太陽定数が 1600 W/m2 以上の場合に得られた大気が熱的に暴走している状態は, 1 次元系において平衡解が存在しない状態, すなわち暴走温 室状態に相当するものであると考えられる.

本文
  1. 背景と目的
    1. 研究の背景
    2. 暴走温室状態に関する過去の研究
    3. 本論文で考察する問題
  2. モデルと設定
    1. 系の設定および仮定
    2. モデル
    3. 計算の設定および実験のリスト
  3. 結果
    1. 3次元世界でも暴走するか?
    2. 3次元暴走限界の値
    3. 平衡状態の変化(循環形態)
    4. 平衡状態の変化(南北構造)
    5. 平衡状態の変化(降水分布)
    6. 暴走温室状態
    7. 暴走限界はどのように決まるのか?(成層圏モデルとの対応)
    8. 暴走限界はどのように決まるのか?(鉛直構造の検討)
    9. 暴走限界はどのように決まるのか?(放射対流平衡解による記述)
  4. まとめ
    1. 結論
    2. 本研究より得られる示唆
    3. 今後の課題・問題点

謝辞・参考文献・索引

  1. 謝辞
  2. 参考文献
  3. 索引
  4. 著者連絡先
付録
  1. 暴走温室状態の研究年表
  2. 1 次元問題のまとめ
    1. 放射平衡解の性質:
      成層圏モデルの結果
    2. 1 次元放射対流平衡解の性質
    3. 放射量上限値の相対湿度依存性
  3. モデルの詳細
    1. 基礎方程式
    2. 放射計算スキーム
    3. 鉛直分解能についての検討
    4. 蒸発・凝結による表面気圧変化
    5. 湿潤対流調節スキーム
    6. 上層減衰層
    7. 鉛直フィルター
  4. 減衰 1 層の場合の結果
    1. 平衡状態:対流圏の子午面構造
    2. 平衡状態:上層の子午面構造
    3. 平衡状態:エネルギーフラックス南北分布
    4. 平衡状態:南北エネルギー輸送量
    5. 暴走温室状態
  5. 平衡状態の大気構造
    1. 全球平均量
    2. 温度分布・質量流線関数(対流圏)
    3. 凝結加熱分布(対流圏)
    4. 比湿分布(対流圏)
    5. 相対湿度分布(対流圏)
    6. 東西風分布(対流圏)
    7. 温度分布・質量流線関数(上層)
    8. 東西風分布(上層)
    9. エネルギーフラックス南北分布
    10. 南北エネルギー輸送量
    11. 擾乱の特徴
  6. 暴走温室状態の大気構造
    1. 全球平均値時間変化
    2. 物理量分布時間変化
    3. 子午面構造
    4. 熱的南北構造
    5. 南北エネルギー輸送
    6. 擾乱の特徴
  7. 各実験結果の静止画
    1. 実験 S1200 の結果
    2. 実験 S1380 の結果
    3. 実験 S1500 の結果
    4. 実験 S1550 の結果
    5. 実験 S1570 の結果
    6. 実験 S1600 の結果
    7. 実験 S1700 の結果
    8. 実験 S1800 の結果
1998年1月26日受領、1998年4月21日受理  ながれマルチメディア98