c. 本論文で考察する問題
過去の暴走温室状態に関する研究は主に1 次元の平衡モデルを用いて行なわれており, もともとの暴走温室状態の発想の元になった動的なイメー ジを実現した研究は Renno et al. (1994) 以外には無い. その Renno et al. (1994) にしても1 次元モデルであり, 3 次 元系において考察した例は全く無い. 本研究は, 3 次元の時間発展問題として暴走温室状態の議論を行うもの である. 主に以下の問題を考察するものとする.
- 0. 太陽定数増大時の計算可能性
- これまでに太陽定数を増大させた場合の水蒸気大気の運動を計算 した研究は無い. そのため, 現在の地球大気の循環を再現するために作られた大気 モデルによって太陽定数が変化した場合の計算が可能なのかどう かということすら明らかではない. GCM の限界を見極めるという意味でも, これは貴重な パフォーマンステストとなるはずである.
- 1. 3次元世界でも「暴走」するか?
- 大気の循環を考慮すると, ハドレー循環の 下降流域においては乾燥化し ているので, そこでの放射量は大きくなるということが考えられる. その場合, 赤道域で射出しきれなかった熱が亜熱帯域において射出されることにより, 全体として平衡状態に落ち着く可能性がある.
- 2. 太陽定数が変化した場合の平衡状態はどうなるか?
- 太陽定数が暴走限界以下で平衡状態に達することができる場合について も, 太陽定数の値によって大気構造がどのように変わってくるのかと いうことはこれまでに調べられていない. この問題は, 他の惑星大気の循環を理解 する上でも意味がある.
- 3. 暴走温室状態の大気構造はどうなるか?
- 3 次元系において暴走温室状態が発生するとすれば, どのような時間発展を示すのか, 温度分布・循環場・エネルギー 輸送・水蒸気輸送は平衡状態にある場合とどのように違うのか も調べることにする. これらの結果は 原始大気の状態を示す 1 つの指標となる.
- 4. 暴走限界(暴走温室状態が発生する太陽定数)は, どのようにして決まるのか ?
- 1 次元系においては, 暴走温室状態が発生する入射エネルギー フラックスの値は大気の鉛直構造によって決まる. 3 次元系においては極域と赤道域間の 熱輸送と物質循環が存在す るため暴走限界の値もそれを規定するメカニズムも 1 次元系におけるものとは異なる可能性がある.