a. 結論
最初に提出した問題に対して, 計算結果から得られた回答は以下の通りである.
- 0. 太陽定数増大時の計算可能性
- 太陽定数を増大させた場合の3次元計算を行なうためには 重力波によって生じると思われる2-grid noise をうまく 処理してやる必要がある. さもなければ上層におけるノイズの振幅が増大し 長時間積分を実行することができない. 本研究では対症療法的に上層 7 層に減衰層, 全層に鉛直 フィルターを導入した.
- 1. 3次元世界でも「暴走」するか?
- 3 次元系においても暴走温室状態は発生する. この計算で得られた暴走限界は S=1600 W/m2 である.
- 2. 太陽定数が変化した場合の平衡状態はどうなるか?
- 太陽定数増大時には南北温度差は減少する. これは南北方向の潜熱輸送が増加し高緯度領域 における凝結加熱が増大するためである. 従って, 熱的には南北差が減少し OLR の緯度分布も平らになる. 循環に関しては,太陽定数が増えるに従ってその強度は弱くなる. ハドレー循環の幅はほとんど変化しない.
- 3. 暴走温室状態の大気構造はどうなるか?
- 暴走温室状態が発生すると, 表面温度・大気温度は上昇し続け, 水蒸気量・大気全量の増加し続ける. 太陽放射で入射した分ほとんど全てが 蒸発フラックスの形で地面から大気に与えられる. 蒸発した水蒸気の 7 割程度が凝結し大気を加熱する. 凝結は赤道域と緯度60度付近で起こる. 高緯度においても多量の凝結で加熱されるため大気の南北温度差は 非常に小さくなる.
- 4. 暴走限界(暴走温室状態が発生する太陽定数)は, どのようにして決まるのか ?
- 3 次元灰色大気において暴走温室状態が発生するかどうかは 入射放射分布によらず入射放射の全球平均値で決まる. 暴走温室状態が発生する放射量の値, すなわち暴走限界は 相対湿度を考慮した 1 次元放射対流平衡モデルによって記述 することができる. 本研究で行なった計算では暴走限界は 400 W/m2 弱となった.