c. 子午面構造
ここでは実験 S1800 における温度, 水蒸気分布, 循環場の子午面分布を示す. これらの図は 870 日から 920 日まで平均した東西平均分布を示している. 各物理量が時間的に変化していく暴走温室状態においても時間平均をとった理 由は, 瞬間値に現れるノイズを除去するためである.
温度分布(図 1) の特徴は, 平衡状態における温度分布と比較して, 温度の値自体が高いだけはなく, 南北温度差がほとんど消失する点である. より上では熱帯の温度が中緯度の気温よりも高くなっている が, 下層では中緯度の温度の方が高くなっている. 対流圏中層において温度が高い緯度は凝結加熱が起こる緯度に対応している (暴走温室状態の熱的南北構造参照). 下層の気温分布は地表面温度の分布に従う形となっている. 質量流線関数のピーク値は平衡状態に比べ大きくなっている. これには, 水蒸気量が増加し密度が増大することもかなり効いているものと 思われる. 循環の強さ(例えば, 南北風の大きさなど)自体は平衡状態に比べてそれほど 大きくなるわけではない. この図で見えているハドレー循環の形態に関しては, 背が非常に高くなるが その幅は平衡状態とほとんど変化しない. ただし, この実験ではかなり時間変動が激しく常にこの図で示したような ハドレー循環があらわれているわけではないことを注意しておく. |
図 1: 実験 S1800 における温度(K)の子午面分布と質量流線関数(Kg/sec). |
凝結加熱分布(図 2)から, 対流層の高さも非常に高くなっていることが わかる. 凝結加熱分布から判断するに, 圏界面のレベルは σ = 0.003 である. この場合では, 平衡状態とは異なり, ほとんど対流圏上層のみで起こっ ている. この理由については, 大気が光学的に非常に厚くなるため放射による冷却が上層でしか起こらなく なることと対応しているものとは考えられるが, きちんとした考察は 行っていない. 今後の課題である. |
図 2: 実験 S1800 における凝結加熱(K/sec)の子午面分布. |
熱帯の比湿分布(図 3)のパターンは 平衡状態における熱帯域比湿のパターン をそのまま上に引き延ばした形となる. 極域においては水蒸気量が大きく増大する. 潜熱エネルギー量の相違からもわかるように, 水蒸気量は平衡状態における値 の約 10 倍である. このため全光学的厚さも 30 となる(光学的厚さは図 4に示した). 高緯度における水蒸気量が増大すること, 地表付近の比湿の値にはほとんど南 北差がなくってしまうこと, が平衡状態とは異なっている. |
図 3: 実験 S1800 における比湿(Kg/Kg)の子午面分布. |
相対湿度の値は平衡状態に比べて減少する. 特に, 緯度 30 度 の 付近のレベルでは 30 % 程度になる. この付近の温度の値は赤道域とほとんど同じであるのに対して, 水蒸気量が少なくなっているためである. |
図 5: 実験 S1800 における相対湿度の子午面分布. |
東西風の分布は平衡状態における分布を上に引き伸ばした形となる. 質量流線関数で見たように, ハドレーセルの背は高くなるので 亜熱帯ジェットはこの図からははみ出してしまう. |
図 6: 実験 S1800 における東西風(m/sec)の子午面分布. |
上層の子午面構造
計算領域の全層に渡る図を示す. 温度分布(図 7a)では, 対流圏と同様上層においても南北差がほとんど 見られない. 高さ方向にはどの緯度においても温度は単調に減少しており, 温度分布で見る限り対流圏界面は明確でなくなってしまう. 東西風の分布(図 7b)により, 亜熱帯ジェットの位置が まで上昇していることがわかる. このレベルは高さに換算すると 50 km 程度になる. 極夜ジェットは 付近のレベルまで上昇していると想像され るが, 残念ながらレイリー摩擦のためにつぶれて見えなくなってしまっている. 赤道上空の西風域も上昇した形になっているが, やはりつぶれて見 えない. |
(a) (b) |