3. 結果

3 次元灰色大気構造の太陽定数依存性と暴走温室状態 3.f. 暴走温室状態 3.h. 暴走限界はどうのように決まるのか?(鉛直構造の検討)

g. 暴走限界はどのようにして決まるのか?
(成層圏モデルとの対応)

以下では, 3 次元系における暴走限界の値, すなわち暴走温室状態が発生する 太陽定数の値がどのようにして決まっているのかについて考察する.

どのように問題をとらえるか?
これまでの結果から, 太陽定数が増大すると OLR の南北差は減少し赤道における 値は 400 W/m2 弱 で頭打ちになることがわかった. これより太陽定数が増大すると OLR の値は緯度によらず 400 W/m2 に漸近するのではないかと考えられる. OLR の漸近値が 400 W/m2 であるとすると, 太陽定数が 1600 W/m になると暴走温室状態が発生するというパラメータスタディの結果も説明が つくことになる. 太陽定数が 1600 W/m2 では入射フラックスの全球平均値が 400 W/m2 となっており, OLR の漸近値とちょうど等しくなっているからである. 結局, 3 次元系における暴走限界はどのようにして決まるかという問題は, OLR の漸近値がなぜ 400 W/m2 なのかという問題に帰着される.

OLR の漸近値は何によって規定されているか?
惑星外向き放射量に関しては, これまでに 1 次元モデルを 用いた議論がなされてきており, 以下の 2 種類の制約条件が存在していることがわかっている.

そこで 3 次元系で得られた OLR 漸近値と上の 2 つの制約条件との関係を見ていくことにする.

では, Komabayashi-Ingersol 限界か?
OLR の漸近値 400 W/m2 は1 次元にある成層圏フラックス通過条件 から決まる Komabayashi-Ingersoll 限界に非常に近い. しかし, 385 W/m2 という Komabayashi-Ingersoll 限界は圏界面が飽和し ている場合の限界である. 3 次元計算で得られた結果では圏界面は飽和しておらず, 実験 S1570 の場合では圏界面における相対湿度の値は約 0.5 である. 圏界面における相対湿度が 0.5 の場合, 成層圏フラックス通過条件で決まる放射量上限値は 約 450 W/m2である ( 相対湿度を考慮した場合の Komabayashi-Ingersoll 限界 参照). これより 3 次元計算で得られた OLR の漸近値は成層圏フラックス通過条件 で決まっているものではないことがわかる. 従って, 1 次元平衡解による記述が可能であるならば, OLRの漸近値は 対流圏フラックス放出条件によって規定されているはずである. 以下ではその可能性について検討する.


3.g. 暴走限界はどのようにして決まるのか? 3 次元灰色大気構造の太陽定数依存性と暴走温室状態 3.f. 暴走温室状態 3.h. 暴走限界はどうのように決まるのか?(鉛直構造の検討)