c. 今後の課題・問題点
3 次元系における暴走温室状態の発生条件を含め, 大気状態の太陽定数依存性を調べる試みの第一歩は踏み出せた. しかし, その結果は非常に簡単化された系において得られたものであるに過ぎ ず, 現実的な世界に対して与えることのできる示唆はわずかである. 放射プロセスから雲の効果に至るまで今後の課題は山積みである. ここでは, 本研究における課題と問題点を列挙しておく.
- 結果の一般性についての検討
本研究で得られた主要な結論: 暴走限界の値は 1 次元モデルの射出限界に よって記述できる, は太陽定数増大時における南北コントラストの減少に よってもたらされたものである. 南北コントラストの度合と南北熱輸送の大きさは密接に関連していると 考えられるので, 熱輸送の形態が変わってくれば我々の結論も変更を 迫られることになるかもしれない. このような観点から, 自転角速度を変えた場合(ハドレー循環などの循環形態が変わる, Williams, 1988a,b)や日射分布を変えた場合(惑星の片面だけを熱した場合には昼夜間対流が卓越する) 等について計算を行うのは興味深いであろう.- 相対湿度分布
我々が得た暴走限界の値は相対湿度分布に大きく依存する. 暴走限界に対する完全な理解を求めるならば, 相対湿度分布がどのようにして決定されるのかという問題を 解決しなければならない. まずはこれまでに示した結果において拡散・移流の効果なども考慮し た詳細な水蒸気収支解析を行なう必要があるだろう.- 上層における波動
我々は長時間積分を実行するために, いわば「安直に」2-grid noise を消去 するため鉛直方向にフィルターを導入した. しかし, これでは上層の循環場を正しく求めることができない. 今後は太陽定数が増大した場合に中層大気に生じる波動擾乱の 性質を調べた上で 適切なノイズの消去方法を模索していかなければならない.- 循環構造に関する解析
太陽定数が変化した場合に現れる循環構造の変化に関しては 現在ほとんど解析を行っていない. 特に, 中層大気の循環構造や熱帯付近における擾乱の発生・維持機構など 興味のある問題が多数存在しているが, いずれも今後の課題である.- 雲の効果
ここで用いたモデルはあまりにモデルが単純である. 現実的な惑星を想定して暴走限界の値をきっちりと決定する ためには, 改良すべきあるいはモデルに組み込むべき要素は多数存在する. 例えば, 海陸分布も含めた地形の情報・アルベドを含めた表層条件・ 海洋の熱輸送の効果など考えられよう. しかし, 最も重要だと思われるファクターとして雲の効果が考えられる. 雲が存在しても太陽定数が必要なだけ増大すれば3 次元系でも暴走温室 状態が発生するという結果はロバストであろうが, 暴走限界の値は大き く変化する可能性がある. しかし, 雲の影響を評価することは非常に難しい. まずは現在の地球大気についてのリモートセンシング観測や積 雲モデルを用いた理論的な研究の更なる蓄積が必要であろう.