地球の雲対流 Index Previous

相変化の諸々の効果を一つずつに加えていくことにより
通常の熱対流と「雲対流」の繋がりの理解を目指す。


可逆的雲対流

通常の熱対流との違いの第一は凝結が生じることである。

では、逆に「凝結のみ」を導入した場合の対流の様相はどこまで変わるか?
数値実験中の実装として、雲物理の式で雨水の生成率をゼロとする。 このとき、唯一の液相である 「雲」は、落下せず凝結蒸発は瞬間的なので、気液間の相平衡が常に保たれることになる。 これは可逆的雲対流と呼ぶのがふさわしい。

結果の特徴

  • 運動:
    • 鉛直流の強さは上昇・下降で大体同じ。
    • セルサイズは対流層の深さと同程度。
    • ほぼ定常である。
  • 水物質の分布:
    • 「雲」は水平一様に全領域を覆う。混合比は上ほど多い。
    • 水蒸気も水平一様。混合比は下ほど多い。

結局、凝結を入れても「可逆」ならば運動の特徴は通常の熱対流と同じ である ことがわかる。

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図 5: 雨の生成を抑止した場合の地球の雲対流のスナップショット。
領域:256km x 23 km。
左上:鉛直流(-10〜10m/s)、
右上:雲水混合比(0〜0.05)、
左下:温位偏差(基本場は地球熱帯大気:-10〜10K)、
右下:水蒸気混合比(0〜0.03)。


雨の除去

凝結物重力分離の効果の一部を導入する。すなわち:

  1. 雨の生成・落下(凝結物の重力分離)を導入
  2. 雨の蒸発(落下先のパーセルに与える熱的影響)は除去
  3. 雨による空気の引きずり(落下先のパーセルに与える力学的影響)を除去

という設定をする。
これらの設定の結果、凝結物が速やかに除去されるので、下降流での蒸発 (すなわち「負の凝結」)は起こらず、系は条件付不安定となる。

結果の特徴

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図 6: 凝結物が除去される場合の雲対流。 上昇流が強い時刻のスナップショットである。
領域:1024km x 23 km。
左上:鉛直流(-10〜10m/s)、
右上:雨水混合比(0〜0.0025)、
左下:温位偏差(基本場は地球熱帯大気:-1〜5K)、
右下:水蒸気混合比(0〜0.025)。

運動の特徴:
  • 鉛直流は上昇・下降が非対称。すなわち:
    • 上昇流は狭く強い。凝結を伴う。
    • その周囲は平均的に、広範囲の弱い下降流。凝結・蒸発無し。
  • 対流は定常でない。大体固定した場所で、下から間欠的にサーマル状の上昇流が生じる。
  • 水物質の分布の特徴:
    • 凝結物は上昇流の近傍のみ存在。上昇流が止まれば無くなる。
    • 水蒸気は、下層は水平一様。上層は雲の近傍以外では乾燥している。

すなわち、凝結物の重力分離は上昇・下降の非対称を生む。 これは条件付不安定の結果である。


 

現実的雲対流

さらに雨の蒸発・ひきずり効果を加えることにより、現実的雲物理の全てを導入する。

結果の特徴

  • 大まかな特徴は雨と空気の相互作用を除外した実験と共通。
  • 細部および時間発展は相当異なる。

そこで、時間発展を見る。ここには雲の lify cycle が現れる。 すなわち:

  • T=109h:下層から局所的に凝結を伴う上昇流が発生。
  • T=110h:上昇流が中層まで成長する一方、雨の地上への落下が始まる。
  • T=111h:雨水の蒸発に伴い、
    • 上昇流の下で下降流し、乾燥空気が下降する。
    • 地面付近に冷たい空気が生じる。
  • T=112h:上昇流は消滅。下層冷気は左右に広がる。


もっと広い領域・長い時間の時間発展を見ると、ひとつひとつの雲が独立でないことがわかる。

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右の雨・下層気温の時間空間分布を見ても:

  1. 雲の成長は雨の生成をもたらす。
  2. 雨が落下して蒸発し、下降流と地面近傍の冷気を生成する。
  3. 冷気が gravity current として広がり、周囲の空気を押しのける
  4. その周辺の下層の暖湿気塊が持ち上げられ、近傍に新しい雲の生成する。
  5. 1 に戻る という因果的に結ばれている系列が見て取れる。 これは、雲集団の自己構造化の一例である。
 

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図 7: 現実的雲物理をいれた場合の雲対流の時間発展。
領域:1024km x 23 km。
上昇流の近傍300kmを切り出している。
時間は一時間おき。
左上:鉛直流(-5〜5m/s)、
右上:雨水混合比(0〜0.0025)、
左下:温位偏差(基本場は地球熱帯大気:-1〜3K)、
右下:水蒸気混合比(0〜0.025)。

 

 

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現実的雲物理:大規模長時間の構造。
下層温度偏差と降水量の時間空間分布。


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