まとめと考察 熱フラックス固定境界条件での回転円筒内の熱対流 物理的解釈 熱フラックス固定境界条件での回転円筒内の熱対流

以上, 上下の境界面の傾いた回転円筒熱対流の運動形態, 特に対流セルの水平スケールへの熱境界条件の影響を調べるために, 熱フラックス固定境界条件の下での対流について線形安定論の手法を 鉛直波数切断を施した系に適用した. その結果, 回転の大きさによらず常に臨界状態として 水平スケールの大きな対流セルが出現することが示された. 回転が大きい場合の中立曲線は, k = 0 の臨界点の他に  k ≠ 0 なる極小点を 1 つ伴う. この極小点に対応するモードの性質は, 回転が大きい極限において 温度固定境界条件において出現する 臨界モードの性質に一致している. 数値計算によって, レイリー数が大きくなると 横長の対流セルの中に水平スケールの小さな対流セルが 重なっている有限振幅対流の解が得られた. この状態は極小点を伴う中立曲線から推測される結果と 調和的である.

本研究の結果は, 回転球殻対流の熱境界条件の影響が 極域での対流には現れず, 赤道域での対流に違いが明瞭に現れることを意味している. すなわち, 経度方向に非常に横長の対流セルが出現しうる. にもかかわらず, 線形発達の段階に出現するであろう 経度方向に小さいスケールの対流セルの性質は 温度固定境界条件下で現れる対流の性質と ほぼ同じ性質を持っていると予想される.

本研究では温度固定境界条件に対する 逆の極限的状況として熱フラックス固定条件下での対流を考察した. 現実の地球流体核・木星型惑星大気あるいは太陽の等の内部対流 への熱境界条件の影響を考えるには, 境界が有限の熱伝導率を持つ場合を考えなくてはならない. そのような考察は非回転下の対流に関しては 行なわれており (Sparrow et al.,1964; Hurle et al.,1967; Busse and Riahi, 1980), 外部パラメターとして 熱伝導率の比と境界と対流層の厚さの比の関数が現れ, それらの関数である Biot 数が境界条件に含まれるようになる. しかしながら, 回転系での対流に関して同様の考察を行なう場合には, 振動するモードが存在するために 熱境界条件に固有モードの振動数と境界の熱拡散率が 入ってくることになる. すなわち対流運動の位相速度のタイムスケールに対して, どの程度熱が境界に染み込むかの比が新たに 境界条件を考えるファクターとして入ってくる. 位相速度が小さく, 対流パターンが動かないのであれば 非回転系での境界条件に近付き, 主に熱伝導率の比のみで熱境界条件が定まることになろう. 位相速度が大きい場合には 境界へ温度が染み込まぬうちに対流パターンが動いてしまうので 結局境界の温度が変化しない温度固定条件に近付くように 考えられる.

本研究では, 解析的に進めるために 鉛直波数 1 までで切断を行なって近似した系で考察した. 近似した系は元の系の性質をそのまま保持していると期待する. さらには, このような切断による近似系に弱非線形論による方法を適用して, 熱フラックス固定下の回転系での有限振幅熱対流の性質を 追求できるであろう.


まとめと考察 熱フラックス固定境界条件での回転円筒内の熱対流 物理的解釈 熱フラックス固定境界条件での回転円筒内の熱対流