地球のマントルは,
内部に含有する放射性元素の壊変や核から放出される熱によって
内部及び下面から加熱され, 表面から冷却されていることにより,
対流運動が生じていると考えられている.
しかしながらマントル物質の粘性の温度依存性や
内部熱源, 相変化境界の存在といった様々な特性のために,
例えば有名なベナール・レイリー型対流といった
単純な熱対流とは異なった対流の形態をとっていると
考えられている.
マントル対流に独特の特徴を与える一つのそのような特性として, 地球の表層に存在する海洋プレートと大陸プレートがあげられる. これらの存在はマントルの上部境界において水平方向に不均質を与えており, 一様境界条件のもとでの熱対流とは異なる対流形態の原因となる. 大陸プレートは海洋プレートよりも密度の小さい物質で形成されており, 海洋プレートのように沈み込むことなくマントルの上部に安定に存在している. また, 周囲よりも地震波速度の速い領域が深いところで 大陸の下 400km 付近まで観測され, 海洋プレートよりも非常に厚いことが知られている (Jordan 1975). このため大陸プレートはマントル上部に熱伝導層として存在し, マントル対流に大きな影響を与えていると考えられている. 大陸プレートのマントル対流への影響が 顕著に現われていると考えられる現象として, ウイルソンサイクルと呼ばれる周期的な大陸の集合・分裂があげられる (Wilson, 1966). 熱伝導層としての大陸は内部からの熱を逃しにくく, 大陸下のマントルを温めるので したがって大陸下では上昇流が形成されやすい. このような上昇流は, 地球の歴史に見られる超大陸の分裂・集合を引き起こす 上昇流に対応するものと考えられている (Anderson, 1982). 現在の地震波速度や重力分布の観測によっても, 大西洋アフリカ付近で最後の超大陸パンゲアを分裂させた プリュームを示していると思われる密度異常が観測されている (Hager et al., 1985). マントル対流に対する大陸の影響を調べるための 研究もこれまでに多くなされてきている. Guillou and Jaupart (1995) の室内実験では, 大陸プレートの効果を想定した熱伝導層を流体層上に設定し, 対流への影響を与えるのかを調べている. その結果は, 伝導層の下に上昇流が形成され, かつ, 形成される対流セルの大きさが伝導層の大きさと 同程度になることを示している. 柳沢 (1995) では, 大陸プレートを想定したスポンジ層を 流体層上に浮かべた熱対流の室内実験を行っている. スポンジ層直下に形成される上昇流の, スポンジ層を移動させた時に追随する様子を調べている. 数値計算では Gurnis (1988), Lowman and Jarvis (1993) などで超大陸の集合・分裂がシミュレートされている. これらのモデルにおいても, 大陸の下に形成された上昇流が 大陸を分裂・移動させ, 再び合体し超大陸を形成させる サイクルが実現されている. |