しかしながら, これらの研究で扱われてきた大陸プレートの水平スケールは, 深さに対して 1 から 4 程度である. 実際の地球においては, 全マントルの深さ 2900km に対して超大陸の水平方向の大きさは 20000km 程度であり, 深さに対する水平スケールはおよそ 6 から 7 になる. したがって, これまでの研究で用いられてきた大陸プレートは 現実の地球のものに比較して非常に小さいものである. これらの研究の結果では いずれの場合も大陸プレートの中央に上昇流が形成されているが, 実際の地球に対応するような水平スケールの大きなプレートを考えた場合にも やはりプレートの中央に上昇流が形成されるのであろうか. 大きなプレートを考えた場合, プレートの中央から上昇するような流れは非常に横長な対流セルを 形成することになる. しかし非常に横長な対流セルは, 水平方向の流れにおける鉛直方向のシアー応力が大きくなるために 形成されにくいかもしれない. プレートの中央ではなく, プレートの端に上昇流があるような 水平スケールの小さな対流セルの方が形成されやすい可能性があるよ うに考えられる. マントル対流の形態は, 深さ 670 km 付近で生じるマントル物質の相転移のために, それよりも上部の層だけで対流セルが閉じている場合があることも 考えられている(本多 1997). このような上部マントル対流の場合を考えると, 全マントル対流の場合よりもさらに水平スケールの大きな大陸プレートが マントル上部に存在していることになる. 上部マントルの深さ 670km に対する 超大陸の水平方向のスケールは約 30 であり, ユーラシア大陸程度の大きさでも深さに対して 15 程度となる. 水平スケールの大きなプレートをマントル対流のモデルに取り入れた研究として Lowman and Jarvis (1996) がある. 深さに対する大陸プレートの水平方向の大きさは, 最大で 12 の場合が扱われている. 彼らの結果には上部マントルでの対流を想定した Ra=255000 の場合には, プレートの中央ではなく端よりに上昇流が形成されている. しかし, 上部マントルの対流に関して Ra=255000 の場合のみ, 全マントル対流に関してはプレートの大きさが深さに対して 4 の場合のみしか 計算がおこなわれておらず, 水平スケールの大きなプレートが対流に与える影響を 十分に調べているとはいえない. そこで本研究では, これまでになされてきた研究で用いられたプレートの大きさよりも さらに横長なプレートを考え, それが形成される対流セルの水平スケールに与える影響を調べる. 第2節では, 本研究で用いた流体層のモデルと 支配方程式・境界条件・数値実験設定について説明し, 第3節にて数値計算の結果を示す. 第4節と5節では, 数値計算で得られた対流の様子を理論的に解釈することを試みる. 境界層理論を用いて流体の温度, 流れの水平速度, さらには形成される対流セルの水平方向の大きさを推定する. 最後に第6節で, 理論的考察の結果から 地球のマントルで形成される上昇流について考察する. |
図 : マントル対流と大陸プレート |