3. 結果

3.6 相関次元

3.2節で示した粒子の散らばりや混合の時間発展を量的に診断するため、 ムービー1・ムービー2で得られた時々刻々の粒子群の分布に対する相関関数の計算をおこなった。 104個の粒子のすべての組み合わせについて2粒子間の距離rを計算し、 その累積度数分布H(r)として相関関数を計算している。 相関次元はd log H(r)/d log rとして定義され、 粒子群の分布についてのフラクタル次元を与える。 2次元流では、よく混合されると2に近い次元となり、 線状に分布している場合には1に近い次元となるので、 混合がどのスケールで起こっているかという情報 が得られる(Pierrehumbert 1991)。 ただしここでは球面上の分布なので距離rの代わりに 角距離jを用いている。


図5: ムービー1(上)・ムービー2(下)で極渦の外側(左)・内側(右)の粒子群4つの分布に関する相関関数H(j)。線の傾きが相関次元になる。
静止画像( t=0 t=10 t=20 t=30 t=40 t=50 t=60 t=70 t=80 t=90 )

図5の上段はムービー1の準周期解での粒子の動きに対して相関関数の時間発展を示したものである。 最初に円内に粒子をランダムに置いたので、t=0日では、円より小さいスケールで次元は2になっている。準周期解の極渦の外側(左)を見ると、 初期の引き伸ばしの効果により30日で次元は1に近くなる。 その後、次元は1から2に増えるので、分布が2次元的に近づいていくといえる。 次元の増大は大きいスケールから起き、小さいスケールへ伝わってゆく。 すなわち巨視的に見た混合が微視的に見た混合より先に起こるということになる。 混合領域の南北幅にあたる0.2より小さいスケールでの相関次元は、t=90日で見積もると約1.8となっている。 このような時間発展は典型的なカオス的混合によるものであり、 小さなスケールから2次元化する拡散や乱流混合とは反対の性質を持っている。 そしてこれはPierrehumbert (1991)の運動学的なモデルでの結果と一致している。 

一方極渦の内側(右)ではそのような特徴は見られない。 大きなスケールでは90日後に相関次元が約1になるが、j < 10-3の小さなスケールでは次元はほとんど変化しない。 これは粒子が入りこまない2つの領域が広い面積を占め、 混合領域が小さくなっているためと考えられる。

図5下段に示されている非周期解での相関次元の時間発展は、 外側と内側とで大きな違いが見られない。 30日程度で1次元に近くなり、その後大きいスケールで混合が起きている。 90日後でもj < 10-3での次元は1.5だが、 この非周期解では準周期解よりもカオス的混合の特徴がはっきり見える。