2. モデル

Ishioka and Yoden (1995) で用いられたものと同じ、 強制と散逸を含んだ球面上の2次元非発散流のモデルを用いた。 この系は次のような渦度方程式に支配されている:
(3)
ここでqはポテンシャル渦度(PV; ここでは絶対渦度と同じ)で q ≡∇2ψ+ 2Ωsinφ で定義される。ψは流線関数で、 ∇2は水平ラプラシアン、 Ωは地球回転角速度を表している。 右辺第一項は、後に述べる東西一様なq0への緩和項である。 東西一様な渦運動を維持する放射強制を模しており、 緩和時間α-1は10日とした。 右辺第二項は数値不安定を防ぐための微小な粘性項で、 ν = 6.43 x 104 m2 s-1とした。 そしてaは地球半径である。 PVはおもに外部強制があることによりラグランジュ的に保存されていない。

球面調和関数で展開するスペクトルモデルを用いて、全波数85で切断した。移流項は東西256x南北128の格子で計算した。時間積分は4次のルンゲクッタ法で、時間間隔は1/80日とした。 強制で与える東西一様なジェットはHartmann(1983)で用いられたものと同じ表式とした:
(4)
で、U,B,φ0はジェットを特徴づけるパラメータである。 Uはジェットの強さ、Bは幅、φ0は南北位置の指標となっている。 そしてそれを
(5)
の関係を用いてq0(φ)に変換し、(3)式の右辺に代入している。 その3つのパラメータの値に応じて、周期流、準周期流、非周期流の3種類の解が得られる:  Ishioka and Yoden (1995)の図1には、 3次元のパラメータ空間でのレジームダイアグラムが示されている。

時間積分は、東西方向に一様なu0に微小擾乱を加えた初期値から始めた。u0が順圧不安定ならば擾乱は成長し、 十分時間が経つと発達する擾乱とジェットを維持しようとする強制とが 拮抗した状態に落ち着く。 言い換えれば、解は位相空間でのアトラクタに漸近し、 周期解のときにはそれがリミットサイクル、準周期解のときにはトーラス、 非周期解のときにはストレンジアトラクタとなっている。 ここでは初期値の影響を避けるために、1000日後からの流れをしらべた。 示されている図の日付表示はすべて1000日後から数え直したものである。

流れ場の時間積分と同時に、流体粒子の軌跡の計算をおこなった。 渦度場のスペクトル係数 qnm(t)( 0 < |m| < n, n = 1,2,...,85 ) と粒子の位置( λi(t), φi(t) ) ( i = 1,2,...,I )を 1組の変数としてルンゲクッタルーチンに入れて計算した。 ここで、i番目の粒子の位置は経度λiと緯度φiを用いて
(4)
で計算する。ψはqのインバージョンによりルンゲクッタルーチン内の各ステップで求めることができる。