4. まとめ

回転系の2次元浅水波モデルで、Rossby波とKelvin波が南北境界の存在によって相互に変換され、そのプロセスが流れの時間変動だけでなく、定常流の性質にも影響を与えることを示した。

まず、初期値問題として時間変動を見た場合、単純な正方形領域(実験1、2)では、Rossby波が伝播して西岸に当たったあと、Kelvin波が境界に沿って伝播し準定常的な流れを作る。その流れが東岸で剥がれて再度Rossby波として伝播し始める。コリオリパラメータの南北変化(Δ)が小さいときには、Rossby-Kelvin変換が何度も起こって振動するが、Δが大きいときには分散が激しくほぼ1サイクルで振動成分は減衰する。Rossby波が孤立した島に 当たる場合(実験3)には、Kelvin波が島を回って反対側で再度Rossby波を励起するため、Rossby波がほとんどすり抜けるような状態となり、境界としての効果は小さい。 さらに、島の南北の水路のうちどちらかの水路を閉じた場合(実験4、5)、Δが小さければ南北どちらの水路も効果はあまりかわらないが、Δが大きい時にはKelvin波の伝播方向の関係で、赤道側の水路を閉じたほうが波が同じ領域に長くとどまることがわかった。

このような初期値問題における過渡的性質は、定常問題にも大きな影響を与える。特に、実験4、5のように東西に2つの領域が狭い水路でつながっている場合、水路の南北方向の位置が、二つの領域間の水の流れやすさを変える。

本論で扱った問題は、2次元の浅水波問題であるが、3次元の熱塩循環問題も、表層と深層の流れを分けて考えると、それぞれの層の中では、表層と深層の境界を越えて出入りする水の再配置問題であり、本論の2次元の議論が適用できる。そのように考えると、現実の太平洋と大西洋がどの緯度でつながっているか、ということが海洋全体の熱塩循環のパターンを決める上で重要であることが理解できる。