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2 液滴振動実験の概要

まず付着液滴の混合現象の実験についての概略を述べる. 詳細は青山ら[11,12,13,14]を参照されたい. 実験装置(マイクロリアクターシステム)は 3つの要素から構成されている(図1). 第一要素は溶液をチャネル内に送り込むための搬送部である. 第二要素はチャネル内において撹拌を行う撹拌部であり, 撹拌ステージを用いて行う. 第三要素は,検出部で,微量液体吐出機構を用いて行う.
図 1: マイクロリアクターシステム
\includegraphics[height=0.2\textheight]{eps/setup3.eps} \includegraphics[height=0.2\textheight]{eps/atsuden.eps}

振動ステージは図1にあるように 積層型圧電素子を2つ 用いた構造になっている. これによって様々な振動を与えることが可能になっている. 本論文では左右の圧電素子に 同位相の信号を加えた場合(軸対称振動)と 逆位相の信号を加えた場合(非軸対称振動)を考える. その結果,特定の加振振動数で 図2にあるような表面張力波が共鳴的に発生し, 内部の流体が撹拌されている様子が観察された.

図 2: 振動する液滴の様子 左:軸対称振動 右:非軸対称振動.
\includegraphics[width=0.45\textwidth]{eps/hyomenchoryoku3.eps} \includegraphics[width=0.45\textwidth]{eps/asymmetric.eps}
動画: 軸対称振動, 非軸対称振動.

液滴内の流体粒子が表面張力波によって撹拌され, 特徴的な軌跡を描いた様子を高速度ビデオカメラで観察した. 液滴を構成する液体は,(1)塩酸 $ \mathrm{HCl}$と水酸化ナトリウム $ \mathrm{NaOH}$の混合溶液, (2)水のみ,の二種類を用い,ともに液滴の体積が$ 5\mu l$となるようにした. 実験したときの温度は25 $ {}^{\circ}C$, 湿度は30%( $ \mathrm{HCl}$+ $ \mathrm{NaOH}$の軸対称振動), 40%( $ \mathrm{HCl}$+ $ \mathrm{NaOH}$の非軸対称振動の場合, $ {\rm H_2O}$ の非軸対称振動) であった. このときの代表的な流体粒子の軌跡とその概念図を図3に示す.

図 3: 実験で確認できた軌跡とその概念図:1,2,3.
軌跡 1 2 3
写真   \includegraphics[width=0.23\textwidth]{eps/path02.eps} \includegraphics[width=0.23\textwidth]{eps/path04.eps}
概念図 \includegraphics[width=0.23\textwidth]{eps/mix0_1a.eps} \includegraphics[width=0.23\textwidth]{eps/mix1_1a.eps} \includegraphics[width=0.23\textwidth]{eps/mix4_4a.eps}

軸対称振動を与えた場合,一時的に軌跡2を描き,持続的には軌跡3を描いた. また非軸対称振動振動は軌跡2の回転運動をした. 更に,同じ振動数で揺らした時でも途中で軌跡が変わり, 図3に挙げた軌跡や更に複雑な 軌跡を描くことがあった.

表 1: 実験で発生した代表的な軌跡と,そのときの振動数.
軸対称振動($ m=0$) 非軸対称振動($ m=1$)
振動数 [ $ \mathrm{Hz}$] 軌跡 振動数[ $ \mathrm{Hz}$] 軌跡
85 特定出来ず    
    150 2
210 3    
    300 2
370 3    
    420 2
520 3    
    580 2
690 3    


流体力学的な解析は次節以降で行うが, まずこの実験を支配するメカニズムが非粘性表面張力振動であることを 示すために重力と粘性の影響を評価する.

重力の影響は重力と表面張力の比であるボンド数$ B_{0}$で評価される.

$\displaystyle B_{0}=\frac{g\rho a^2}{\sigma}$ (1)

上式のボンド数$ B_{0}$が1より非常に小さいならば重力の影響は無視できる. 実験で使用した値, $ V=1\times 10^{-9}[m^{3}]$ $ 5\times 10^{-9}[m^{3}]$ではボンド数はそれぞれ 0.082,0.241となり,重力の影響は相対的に小さいと考えられるので, ここでは第一近似として無視する.

動粘性係数が $ \nu[L^2T^{-1}]$のときのストークス層の厚さ$ \delta[L]$は, $ \sqrt{{\nu}/{\omega}}$に比例する. これと液滴半径$ a$との比をとり,粘性がどの程度の影響を与えるのかを調べた.

$\displaystyle \sqrt{\frac{\nu}{\omega}} \sim \nu^{1/2}\rho^{1/4}a^{3/4}\sigma^{-1/4}.$ (2)

実験の場合, $ \delta / a$は0.0139から0.0393程度になり, 粘性の影響は十分に小さいと考えられる.


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鈴木, 高橋, 宮嵜, 青山