球形液滴の表面張力振動は,Rayleigh[1] が非粘性・無限小振幅の振動について解析して以来100年以上にわたり研究されてきた. 粘性の影響(Lamb[2]など),有限振幅の影響 (Natarajan et al.[3,4]など) などが研究された. 特に後者について,Natarajan et al.[4]は 3次の非線形相互作用のため,球形液滴の有限振幅軸対称振動が 非軸対称振動に対して不安定化することを示した. 振動現象の非線型性が強くなると理論解析ができなくなることから, 数値計算(Lundgren and Mansour [5]など)や 実験(Azuma and Yoshihara[6]など)の解析がなされている. 一方, 固体面に付着した液滴の振動については Strani et al.が 線形固有値問題の解析を行っていて[7], その結果は弱い粘性の場合に拡張された[8]. また有限振幅となる場合は数値計算を行なう必要があるが, Wilkes et al.[9,10]により ぶら下がる液滴の振動のガラーキン有限要素法による数値解析結果が報告されている.
筆者の一人(青山ら[11,12,13,14])は, マイクロポンプ,簡易マイクロチャネル, 振動撹拌ステージ,マイクロロボット(微小液滴吐出機構)をもちいてマイクロ リアクタシステムを作成した. この装置を用いて, 平面板上の液滴に液滴の固有振動数と一致した振動を加えることにより, 液滴表面に表面張力波を発生させたところ, 液滴内部の混合が促される結果となった. このとき流体粒子を置いて可視化したところ, 液滴内部では流体粒子は単純な軌跡を描くことがわかった. 単純な流れ場での複雑な混合現象はラグランジアンカオス (Ottino[15,16]) としてさかんに研究されている.
本研究では,この実験を流体力学的な観点から解析し, 実験で起こる流動の再現と, より効率的な混合方法を提案することを目的とする. 第2節では,解析対象となる実験の概略を述べる. 第3節では,表面張力波を線形固有値問題として捉え, 固有振動数・固有ベクトルを数値的に得る. この固有モードを励起したときの流体粒子の軌跡を第4節 で調べる. 第5節で混合効率を定量的に調べる. 最後に第6節で結果をまとめる.