5 まとめと議論
古川 & 新野(2006)[4]で研究されたsin型水平シア流中の熱対流について再考察を行った。古川 & 新野(2006)[4]と同様の設定で非線形時間発展を計算した結果、基本流の方向に平行なロール状対流が発達して準定常化した後、波数4,5の擾乱の発達によってロールが崩れ、その後、波数1の順圧渦構造が発達することが確認された。線形安定性解析により、ロールを崩した波数4,5の擾乱の発達はロール解自体の不安定によるものであることを示した。また、エネルギー解析を行った結果、波数1の順圧渦構造が発達する頃に順圧平均流成分から順圧渦成分への非常に大きなエネルギー変換が見られた。これは傾圧成分から順圧渦成分へのエネルギー変換よりも大きかった。更に、波数4,5の擾乱が発達し切った後の順圧平均場について線形安定性解析を行ったところ、波数1の不安定モードだけが見つかり、その固有値と実際の波数1成分の成長率とが整合的であった。以上より、波数1の順圧渦構造は順圧不安定によって励起されたと考えられる。時間発展の各時刻において順圧平均場の線形安定性解析を行った結果、初期には不安定な順圧固有モードは存在しないが、ロール状対流の発達により基本流が変形した後は不安定な順圧固有モードが存在し、更に波数4,5の擾乱の発達に伴って順圧平均流が大きく歪められることによって、順圧固有モードの発達率が大きくなることが分かった。このように、不安定が二段階になっている、すなわち最初にロール解の不安定によって基本流が歪められ、その歪んだ基本場が別な不安定を起こして、より大きな構造の擾乱を発達させたという点は興味深い。
本研究では、古川 & 新野(2006)[4]と同じ設定、周期境界条件の系を扱った。この系では、方向の周期が基本流の周期と一致しているために、初期に与えた基本流が順圧的に臨界安定という特殊な設定であり、方向の周期をより長く取ってやれば、基本流はそもそも最初から順圧不安定になっていたはずである。したがって、この研究で見つかったような二段構えの不安定は現実的ではないものと批判されるかもしれない。しかし、境界条件や散逸などの条件によっては、本研究で示したように、擾乱の影響によって基本場が変形されることによって、新しい不安定が起こるということは実際にあり得ることであると考えられる。
SAITO Naoaki
2008-03-07