本研究では、回転軸が鉛直方向から傾いた系におけるsin型水平シア流中の熱対流に関する研究を行った。線形安定性解析の結果、非線形時間発展で見られる杉綾模様のロール状対流の構造は、初期場の持つ最も不安定な固有モードの構造に対応していることが示された。固有モードの二次効果を解析した結果、平均流の加速への寄与は、Hathaway & Somerville(1987)[2]の言うような直接的な運動量輸送の効果よりも、二次的に生成される鉛直流に働くコリオリ力の効果の方が大きいことが明らかになった。さらに詳細な解析により、まず擾乱による鉛直上向きの熱輸送が浮力偏差を生み、その浮力偏差が鉛直流を生成し、その鉛直流にコリオリ力が働き平均流を加速する、という過程が最も重要であることを示した。
固有モードのロール状対流の軸は、方向に凸であるだけでなく、系の傾いた回転軸に沿うように傾いている。さらに、慣性的に安定度の高い領域側よりも低い領域側のロール状対流の方が流速が大きい。したがって、擾乱の熱輸送が生成する浮力偏差は上側の方が強くなり、二次的に生成される鉛直流の正のピークの位置が平均流の最大流速域に近付く。系の回転が弱いの場合の方が、平均流の水平シアの影響を強く受けて慣性的な安定度の差が大きくなり、この効果が顕著に現れるため、平均流が大きく加速されると考えられる。
以上のように、回転軸の傾いた系において初期の平均流にsin型の水平シアが存在する場合、平均流が加速されるメカニズムが存在することが明らかになった。このメカニズムは、木星等の惑星大気に見られる縞状構造の生成・維持過程においても働いている可能性があるが、そのような関連を明らかにするためには、実験パラメータを広範に振った更なる実験及び解析を行う必要がある。
SAITO Naoaki