木星雲対流モデルの開発 | << Prev | Index| Next >> |
(A.7) 式中の凝縮加熱項 Qcnd, および (A.8) 式中の生成項 Src は, Kessler (1969) [2] の暖かい雨のバルクパラメタリゼーション に従って評価する. このパラメタリゼーションでは 図 2.1 に示したように, 凝結成分を「蒸気」, 「雲」, 「雨」の 3 つのカテゴリに分ける. 「雲」と「雨」は共に凝結物であるが, 「雲」は大気とともに運動するのに対し, 「雨」は大気の運動から離脱して落下するものとする. 異なるカテゴリ間の変換率はそれぞれのカテゴリの混合比を用いて計算する. 簡単のために, 雲と雨のカテゴリは純物質から成るものとし, 溶液は考慮しない. さらに凝結物である H2O 氷, NH4SH 固体, NH4SH 氷の間で相互作用は生じないとものと仮定する.
(A.7) 式中の凝縮加熱項 Qcnd は各凝結成分に対して以下のように表される.
ここで L は潜熱もしくは反応熱, CNvc は凝結による水蒸気から雲への変換率, EVcv は蒸発による雲から水蒸気への変換率, EVrv は蒸発による雨から水蒸気への変換率を表す. (A.8) 式中の生成項 Src は蒸気("vapor"), 雲("cloud"), 雨("rain")に対して以下のように表現できる.
ここで CNcr は併合成長による雲から雨への変換, CLcr は衝突併合による雲から雨への変換を表す. (B.1) -- (B.4) 式を (A.7) 式と (A.8) 式に代入することで, (A.7) 式と (A.8) 式は以下のように表される.
式 (B.5)--(B.14) の雲微物理に関する各項の具体的な表現は以下に示す.
併合成長による雲から雨の変換率は以下の式で表す.
変換の時間スケール τ0 と 閾値 q0 は, Nakajima et al. (2000) [6] に従いそれぞれ τ0 = 100 sec, q0 = 0 とした. これらの値は木星の雨の終端速度は地球大気での値よりも大きいという効果 [15] を考慮して選択した.
衝突併合による雲から雨への変換率は以下の式で表す.
ここで fj は木星重力と地球重力の比で, fj = 3 とする [6], [15].
蒸発による雨から蒸気への変換率は過飽和量 qvsw - qv に比例するように与える.
重力落下による雨水混合比の変化率は以下の式で与える.
ここで雨水の終端落下速度 Ur [m s-1] は以下の式で与える.
蒸気と雲の間の凝結と蒸発は, Klemp and Wilhelmson (1978) [1] と同様に, 式 (B.5)--(B.14) から - CNvc + EVcv を除いた方程式系を解いた後に, 必要に応じて θ, qv, qc を飽和状態に調節することで評価する.
以下では予報方程式 (A.4)--(A.8) および式 (B.5)--(B.14) から - CNvc + EVcv を除いた場合に得られる変数に添字 * を付けて θ*, qv*, qc* と表し, 調節後の変数を θ, qv, qc と表す.
熱力学第一法則より, 調節前後の変数の間に以下の関係が成立する.
ここで調節後の蒸気の混合比 qv は 飽和混合比 qvsw に等しいものとする. また, γ = Lv/cp π である. qvsw は 補遺 F に示した H2O と NH3 に対する飽和蒸気圧と潜熱を用いて与える. qvsw を θ* のまわりでテーラー展開し, (θ* - θ) の 2 次以上の項を無視すると, (B.20) 式は以下のような関係式に近似できる.
ここで
(B.21) 式より, 凝結量 CNvc と蒸発量 EVcv はそれぞれ,
と表現される. なぜならば, 調節後の混合比は負になることはなく, さらに CNvc と EVcv は それぞれ正の量として定義されているからである.
これにより調節後の θ, qv, qc が以下の式より得られる.
飽和状態により正確に収束させるために, 本モデルでは上記の手続きを 4 回繰り返す.
調節後の H2S, NH3 の分圧は NH4SH 生成反応, NH3 + H2S ↔ NH4SH, の平衡条件を満たさねばならない. 平衡定数は以下のように与えられる.
ここで pNH3 と pH2S はそれぞれ NH3 と H2S の分圧である (Kp の具体的な表現は補遺 Fを参照 のこと). NH4SH の生成にともなう分圧の変化を ΔpNH4SH とすると, (B.25) 式は以下のように表される.
もしくは,
この式を解くことで Δ pNH4SH が得られる.
ただし, 根号の負の符号は Δ qNH4SH < pH2S , Δ qNH4SH < pH2S となるように選択した. 以上より CNvc と EVcv はそれぞれ,
と書ける. なぜならば, 調節後の混合比が負になることはなく, さらに CNvc と EVcv は それぞれ正の量として定義されているからである. 混合比変化 Δ qNH4SH は Δ pNH4SHより計算される.
したがって調節後の θ, qNH3, qH2S, qNH4SH は以下の式より得られる.
ただし, MNH3, MH2S, MNH4SH はそれぞれ, NH3, H2S, NH4SH の分子量である. 平衡状態へより正確に収束させるために, 本モデルでは上記の手続きを 4 回繰り返す.
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