木星雲対流モデルの開発 << Prev | Index| Next >>

4. まとめ

H2O と NH3 の凝結と NH4SH の生成反応を考慮した, 準圧縮系方程式系 [1] に準拠する 2 次元の木星雲対流モデルの開発を行った. 開発したモデルを用いた 1 つのテスト計算例として, 統計的平衡状態へ至る時間を加速するために 放射強制力を現実の木星大気での 100 倍程度の - 1 K/day に設定した, 雲対流の長時間数値計算を実行した. 3 種類の成分から成る雲の鉛直構造と対流運動の様相を考察するために, RGB 合成を用いた可視化手法も提案した.

RGB 合成を用いた可視化手法は 3 種類の成分から成る雲対流の構造を可視化するのに有効であった ( 3.2 節). テスト計算で得られた雲の鉛直分布は, 従来の鉛直一次元熱平衡計算で示された 3 層の雲層 [3], [4] (図 1.1 参照) とは大きく異なっていた. 大気下層で凝結する H2O の雲粒と NH4SH 雲粒が NH3 凝結高度を超えて上空へ移流され, NH3 凝結高度と対流圏界面の間で 3 種類の雲粒が混合する. この原因は, NH3 凝結高度と NH4SH 生成高度での安定層強度が弱く, H2O 凝結高度から対流圏界面に到る速やかな鉛直移流が存在するためである. ただし, これらの結果は, 与えた放射強制が非現実的に大きかったことに依存している可能性があることに注意しておく必要がある. 木星大気での現実的な大きさの放射強制を与えた場合には, 対流運動が弱くなり, NH3 凝結高度もしくは NH4SH 生成高度が力学的・物質的な境界として作用し得るかもしれない.

今後, 現実の木星大気との対応を議論するためには, 対流圏上部の熱強制の値を小さくな現実的値にし, 系の水平領域を十分広く与えた計算を行う予定である. また, とりあえずは地球でのパラメタ値で代替えして計算を実現した 雲微物理過程の不確定なパラメタに対する計算の不確実性を掌握しておくために, これらを広く変化させた計算を実行しておく必要がある. その上で, 凝結性成分の存在度を太陽系形成論から予想される範囲で変化させた計算, 2 次元から 3 次元への拡張などを実現し, 木星大気中において生じているであろう雲対流の構造とその多様性を掌握していく 予定である.


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