4. 実験結果 (湿潤対流調節スキーム) | [prev] [index] [next] |
Kuo スキームを用いた実験 (3.4節) とは異なり, 湿潤対流調節を用いた実験では放射冷却鉛直分布によって 東進あるいは西進する格子点スケールの降水域のどちらかが選択的に現れるという ことはなかった. 以下では, 3.4節 とは異なり, 上層冷却実験の場合のみを記すことにする. 下層冷却実験の場合も, 各物理量偏差の強度は異なるが, 基本的な構造の概略はあまり変わらない.
図4.10は上層冷却実験 (adj-c) の東進する降水域に準拠したコンポジット構造である. 構造は Kuo スキームの上層冷却実験の東進降水域について作成した コンポジット構造図3.10とよく似通っている. すなわち, 温度偏差の鉛直東西断面に位相の西傾構造が見られること(図4.10上右), 南北風より東西風の応答が卓越していること, 圧力の偏差場が赤道近傍に局在していることなど, 赤道ケルビン波の性格を強くもっていることである. Kuo スキームでの構造との相違は, 下層から西側に広がる負の偏差が強く, しかも高い高度まで及んでいることである. 下層の強い冷却は湿潤対流調節スキームの特性によると考えられる.
下層冷却実験から抽出した東進降水構造のコンポジット(図は示さない)は, 上層冷却実験のものと似た構造を示しているが, 偏差強度はかなり弱い.
図4.10: 図3.10に同じ. ただし, 東進する格子点スケール降水構造に準拠したコンポジット構造. 湿潤対流調節スキームの上層冷却実験 (実験 adj-c) の場合. 東進する格子点スケール降水構造に準拠したコンポジット図. (左上) 降水量の赤道上経度時間図 (単位は [kg m-2 s-1]), 及びコンポジット解析に用いた参照点 (黒点). (右上) 温度の東西平均から偏差の赤道上経度高度図. (単位は [K]). 矢印は風速の東西平均から偏差 (大きさは右下の矢印が [30m/s, 4x10^-6 /s] に対応). (左下) 地表面気圧の東西平均から偏差 (単位は [Pa]). 矢印は風速の東西平均から偏差 (大きさは右下の矢印が [12m/s, 12m/s] に対応). (右下) σ=0.23 における高度場の東西平均から偏差 (単位は [m]). 矢印は風速の東西平均から偏差 (大きさは右下の矢印が [12m/s, 12ms/s] に対応). |
図4.11は上層冷却実験 (adj-c) の西進する降水域に準拠したコンポジット構造である. 構造は Kuo スキームの下層冷却実験の西進降水域について作成した コンポジット構造(図3.11)とかなり似ている. 温度偏差は上昇域(降水域)の近傍に集中しており位相の傾きは無く(図4.11右上), また, 上層の風速場の応答は東西南北に等方的である(図4.11右下). Kuo スキームでの構造との相違は, 下層の負の温度偏差の存在と, 下層の水平風の低気圧性(赤道の北側で反時計周り, 南側で時計回り)の回転の存在である. 前者は, 上での述べた東進構造での下層の負の温度偏差の発生と同様, 湿潤対流調節の特徴である下層冷却の現れである. 後者は, 湿潤対流調節スキームを用いた実験では, Kuo スキームを用いた実験と比較して, 赤道上の降水域の南北への広がりが広いこと (ここでは図は示していない) と関係している可能性がある.
どの変数についても全般的に上層冷却実験より下層冷却実験の方が偏差の振幅が 小さいことは, 東進構造のコンポジットと同様である.
図4.11: 図3.10に同じ. ただし西進する格子点スケール降水構造に準拠したコンポジット構造. 湿潤対流調節スキームの上層冷却実験 (実験 adj-c) の場合. |
[prev] [index] [next] |