エンストロフィー密度(渦度の自乗)による渦構造の表現と渦軸との 比較を考える。 図6 のアニメーションは、エンストロフィー密度 の値を大きい方から徐々に減らした等値面と渦軸との動的比較である。 最初、管状の等値面がいくつかの渦軸のまわりに現われるが、 それとほぼ同時に、層状構造が2つ、画面中央部に見えてくる。 左の層状構造は渦軸を伴わないことから、回転よりもむしろ剪断が卓越した領域で ある。 これに対して、右側の層状構造は、渦軸を内包し、旋回運動を伴っている。 内部に渦軸を含むこのような層状構造は、発達しつつある乱流場で特に多 く観測される。 しきい値をさらに下げると、等値面の外に残る渦軸は少 なくなるが、個々の渦の同定は難しくなってゆく。 さて、最後に等値面の中に取り込まれるのは、 画面中央よりやや右下で、上下に伸びている長い渦軸である。 この渦軸の上部と下部は比較的早い段階で等値面に覆われているが、中央部は 他のほとんどの渦軸が等値面に覆わるまで裸のままである (しきい値 0.0019 前後の画面を参照)。 これは、エンストロフィー密度を基準に判断したのでは、長く伸び た渦軸さえも見落とす危険性があることを示している。 | 図6: エンストロフィー密度の等値面で、しきい値を漸減させたアニメーション (movie: AVI / QuickTime) |
エンストロフィー密度の等値面は、その方法の手軽さから、渦構造の可視化および 解析に最もよく使われてきた方法のひとつである。 渦度は速度勾配テンソルの反対称部分で、流体要素の自転角速度を表すという 明確な物理的意味をもっているが、 流れの空間構造を記述するには、速度勾配テンソルの 対称部分である変形速度テンソルの情報も同じ程度に必要である。 実際、層状の渦と管状の渦の共存する剪断乱流などにおける渦構造の同定は、 渦度と変形速度を使ってなされる [3]。 圧力の場合と同様に、エンストロフィー密度の等値面のしきい値の選択に 任意性があり、 しきい値の大きさに依存して等値面の構造が大きく変化してしまうことに 注意しなければならない。 最近、エンストロフィー密度の低い等値面の可視化により、 層状の弱い渦が管状の強い渦を巻き付く形で存在することが示されて いる [17]。