地球の雲対流では、水蒸気が凝結して雲になったあと、 ミリメートルのオーダーの直径に成長する結果、重力分離 して雨や雪として地上に降ってくる。
その効果はどうなるだろうか?
図2:凝結物の重力分離が起こらない場合と起こる場合の温度変化 パーセルの熱力学的可逆性
まず、凝結しつつあるパーセル(気塊)に注目しよう。 (ここでは凝結はパーセルの上昇で生じるとする。)
この際、放出される潜熱のため、パーセルの温度は 凝結が生じない場合の断熱温度変化 (気象学用語では「乾燥断熱温度勾配」)よりも 小さな割合(気象学用語では「湿潤断熱温度勾配」)で低下する。
ここまでは、凝結物の重力分離の有無には余り依らない。しかし下降運動においては:
- 凝結物が重力分離しない場合、相変化は可逆的bである。 すなわち、上昇運動で生じた凝結物は下降の際に再び蒸発し、潜熱はパーセルから「回収」されてしまう。
- 凝結物が重力分離する場合、相変化は非可逆的である。 すなわち、上昇運動で生じた凝結物は落下しており、もとのパーセルの中で蒸発することは無く、 潜熱はパーセル中にそのまま残る。結局、下降運動では水蒸気・潜熱の出入りは無い。
という重要な相違が生じる。
パーセルの浮力
「分子量効果」の節
で調べたパーセルの浮力の議論では凝結物を無視した。凝結物を考慮すると、 再び重力分離の有無によって:
- 重力分離がある場合、凝結物が除かれるので、先の議論のままで OK。
- 重力分離が無い場合、凝結物に働く重力がパーセルの実効的浮力を減少させる。
という違いが生じる。
落下した凝結物の運命
凝結物の落下は、鉛直方向に離れた気塊の間に時間・空間的に遠隔的なコミュニケーション を生じさせる。
もとのパーセルから脱落した凝結物が下方に位置する別のパーセル中に落下して:
- 蒸発して潜熱を奪うことにより、落下先のパーセルを冷却
- 凝結物に働く重力が、落下先のパーセルを引きずる
という結果が生じる。
水平平均した熱・物質の収支
凝結物の重力分離の有無によって、水平平均してみると:
- 凝結物の重力分離が無い場合には、
上昇領域での凝結と下降領域での蒸発がキャンセルし、 正味の凝結・潜熱放出はどの高度でもほぼゼロである。
この状況は、正味の水蒸気・潜熱輸送が無い (上昇流と下降流がともに飽和しており蒸気混合比がほぼ等しい)ことと consistent である。- 凝結物の重力分離ある場合には、
凝結の起こる高度領域では正味の凝結・潜熱放出が卓越する一方、 凝結物が落下してくる高度領域では正味の蒸発・潜熱吸収が卓越する。
この状況は、上向きの水蒸気・潜熱輸送がある (上昇流は飽和しているが、下降流は不飽和である)こと、および、凝結物が下向きに落下することと consistent である。という相違が生じる。
現実に、地球大気の熱帯における鉛直熱輸送は:
- 海面に日射が当たり、水蒸気が蒸発。
- 雲が出来て、水蒸気が上空に輸送される。
- 凝結して大気を加熱。雨は海に落下。
のサイクルであり、重力分離=雨の生成が本質的に重要である。