座談会「流体力学の基礎教育」

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〔谷田〕:私の経験で言いますと, 学生の授業のレベルは, 10年前, あるいは20年前に比べると, ものすごく低下している. 大衆化すると必然的にそうなるというのはわかるんですけれども, 大衆化しても, 質を落とさないで, 質を維持するのにはどうするかということが非常に重要だと思うんですね. また, 先ほど酒井先生ですか, 自分でわからないことは勉強したと言われたんですけど, 昔は, 学生がわからないことは自分が悪いんだと思うわけですね. 自分で進んで勉強する. ところが, 今は授業で学生がわからないと, 教える側が悪いんだということになってしまうわけですね. 学生の個性とか情報化の結果だろうと思うんですけど, 非常に受動的であるわけですね. 勉強するというのは本来能動的なものであるわけですが, 受動的なものをいかに能動的に持っていくかということが必要だろうと思います.
 それで, 先ほどの 「失敗させる実験」 も必要だと思うんですが, 実体感のある教育をやってやる必要があるのではないか. これはほんとうに自分でやる気があれば, 実体感がある教育をこっちからやる必要はないわけです. しかし, 今はそういうことも言ってられないわけですから, いかに受動的な学生を能動的な学生にするか, 実体感のある教育をいかにするかということも必要だと思います.
 それで, 流体力学については, 谷一郎先生の有名な言葉 ─ 伝説的になっているんでしょうか ― 「ラムの乾燥にあえいでいた私にプラントルの写真から水の潤いを恵まれたようである」 を思い出すのですが. これは, 完全流体の力学 ─ ラムのハイドロダイナミクス ─ は流体力学としてはそぐわないんだというわけです. プラントルの可視化の実験から現在の実際の現象に結びついた流体力学というのが発展してきたんだ, ということで言われた言葉なんです. つまり, 現象にどういう物理的な意味があるか, そういうのをしっかりと学生に把握させるということが重要だろうと思います.
 いろいろ方法があると思うんですが, 木村先生が言われたオイラーの方程式の加速度の問題なんかも具体的にどういう意味を持っているかということなんかも一つの例になるわけです. 視覚教育が非常に重要であるわけです. 現在は若い人たちというのは, ゲームとか, 映画とか, いろいろ映像文化の中に育っているわけで, 映像として情報を与えると, 脳みそを活性化させるというか, そういうところがあるだろうと思うんです. ですから, できるだけ授業の中で, ラムじゃないですけど, 無味乾燥な数式だけを扱うんじゃなくて, 何か手助けしてやるような手軽な実験ですね. そういうことをやってやれないかなと, そういう発想からいろいろ手づくり実験というのを考えてみて, それを去年, 可視化情報の学会誌に発表させていただいたわけです.
 それで, 授業において手作り実験を利用しておりますけれども, こういう例があるんです. これは今度の 『ながれ』 の会誌にも書いてありますけど, 東海大学の第 2 工学部 ─ 夜学のほうなんですが, 今は昼間学部的になっています ─ で機械工学通論というのがあります. この授業は, 1 年生を対象として機械工学とはこういうものというようなイメージ, 興味を持たせるということで, 複数の教員が分担して講義をそれぞれ 3 回ほどやるというもので, 普通は概論的な本を使ってやっている人が多いようです. 3 回ぐらいでそういう流体力学とか, 機械力学といったものを学生にわからせるというのは非常に難しいわけで, たまたま 3 回ほどやってくれ, しかも機械力学と流体力学を込みでやってくれという話になりまして, 機械力学と流体力学の手作り実験を幾つか紹介しながら講義をやりました. それは後で聞いてみましたら, 評判は悪くなかったということでした.
 そういうことですので, 授業を昔風にやって, 学生がわからないのは学生のほうが悪いんだというふうに言いたいところなんですが, そうも言っておられないということで, 今はそういう苦労をしているということなんでございます.


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