岩屑なだれの見かけ摩擦係数が低い原因を調べるため、粉体層上で剛体を滑走させる実験を行い、その動摩擦係数を測定した。
実験では粉体として主に小麦粉、その上を滑らせる剛体として金属円盤を用いた。滑走の様子をデジタルビデオに記録し、パソコン上で1/60秒毎の円盤の位置を読み取り、円盤の速度変化から動摩擦係数を求めた。
その結果、動摩擦係数が急激に変化する速度が存在し、それ以上の速度では動摩擦係数は通常の剛体間の動摩擦係数よりも小さくなることが確かめられた(以下では、このような速度を浮上臨界速度と呼ぶ)。また、滑走痕の観察などから、浮上臨界速度以上では、流動化した粉体の上に円盤が浮いた状態で滑走していることがわかった。
比較実験として、円盤底面の状態を変えた実験を行った結果、粉体が付着しやすいざらついた状態のとき、動摩擦係数は小さくなるが、底面が滑らかな場合の場合は、浮上臨界速度の存在が認められない上、動摩擦係数は非常に大きくなることがわかった。また粉体そのものを変えて実験した結果、小麦粉、片栗粉では円盤が浮上した状態で滑走したが、ケイ砂を用いた実験では、浮上臨界速度の存在は認められなかった。
この実験結果を理解するため、円盤が浮き上がるメカニズムとして動圧モデルを考え、それから推算される浮上臨界速度と、実験で得られた浮上臨界速度を比較したところ、モデルによる値が小麦粉と片栗粉の実験値の下限とほぼ一致した。このことから、円盤の浮上には粉体の動圧が関係していることが示唆される。また、実際の岩屑なだれのデータを元に動圧モデルを用いて求めた浮上臨界速度は、実際の岩屑なだれの最大速度よりも低く、矛盾しなかった。
しかし、今回の実験では円盤直下の粉体の詳しい状態は不明である。更に、片栗粉を用いた場合に条件に依らず動摩擦係数が比較的低い値を示すことや、ケイ砂を用いた場合にはほとんど滑走しないことなど、幾つかの説明できない結果もあり、詳しいメカニズムの解明には今後も研究が必要である。