3. 結果

3.3 有限時間リアプノフ指数

混合の局所的な量的指標として有限時間リアプノフ指数を計算した。 この指数はごく近傍の軌道間の距離の指数関数的な増加率をあらわしている。 指数の値は初期位置xと評価時間τに依存するので、その空間分布を、評価時間を変えて調べた。

指数の計算には特異ベクトル法を用いた(Goldhirsch et al. 1987; Geist et al. 1990)。 正規直交な2つの微小擾乱δxについての時間発展に関する行列をつくる。
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最大の有限時間リアプノフ指数λ1
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で与えられる。 ただしσ1とσ2はMの特異値で、 MMTの固有値の平方根に等しい。 擾乱の増幅にともなう非線形効果を取り除くため、 擾乱の大きさが初期の10倍を超えたときに1/10に縮められる。 これはプルバック法とよばれる(Lichtenberg and Lieberman 1992)。 計算の最後に縮めたファクターをかけ直してもとの値に戻す。

図3はそのようにして得られた有限時間リアプノフ指数の空間分布である。評価時間を2日にしたものと、90日にしたものを示している。色が濃いほうが指数が高い。上段が準周期解、下段が非周期解での結果である。

図3: 最大有限時間リアプノフ指数の空間分布。 格子点間隔が2度毎で、20度より極側を調べている。評価時間を2日(左)、および90日(右)にした結果を示す。上段が準周期解、下段が非周期解での結果。

評価時間2日では評価時間が短いので、水平シアーによる線形的な引き伸ばし効果が支配的である。 λ1の小さな値の領域がリング状に存在し、これが極渦の縁に対応している。 ジェットの両側にλ1の大きい値の領域が広がっていて、特に赤道側で大きい。 この評価時間ではカオス的な効果ははっきり見えない。

時間がたつと、粒子のラグランジュ的なふるまいがカオス的になるので、 λ1の初期位置に対する依存性が強くなる。 評価時間90日の結果を見ると、平均的に内側の値は外側より小さい。 これは過去の研究でも指摘されていることである(Bowman 1993; Bowman and Chen 1994)。 25度より赤道側ではλ1の値は非常に小さくなっている。 また、極渦の内側ではλ1の分布が不均一で、 その値の小さい、大きな三角形型の領域が存在している。 これはムービー1・ムービー2で粒子が入りこまなかった領域とほぼ一致している。