3. 結果

3.2 流れ場の時間変化と混合・輸送障壁

3.1節で見られたように、これら2つの解では東西平均した流れ場の緯度構造は大きく違わないが、 時間方向の周期性が異なる。 準周期解では2つの非通約な振動数成分とそれらの線形結合だけをもったものであるのに対し、 非周期解ではそのような周期性をもたず、連続的なスペクトルになっている。 この2つの解の時間変化のようすと、そこでの流体の動きを次に見てみることにする。

3.2.1 準周期解でのようす

準周期解では、極渦が東向きに回転(周期約3.45日)しながら、 その形を周期変動(周期約1.59日)させている。 この2つの周期は非通約なので準周期性をもっているといえる。 ムービーでは周期3.45日で回転する系で見ることにより、 渦の形の周期変動のみを見ている。 これはまた、ジェットの上の、波数1と波数3の2つのプラネタリー波の重ねあわせと 解釈することもできる。 2つの波の振幅はほぼ同程度で、若干波数3のほうが大きい。

PVの勾配が大きいところが極渦の縁と考えられる。その外側・内側それぞれで、評価時間2日のリアプノフ指数(後述)が最大になる場所を選び、 その付近においた多数の粒子の移流のようすを調べた。 104個の粒子を、半径0.05radの円内にランダムに配置し、90日間の移流計算をおこなった。

 
ムービー1: 準周期解における多数の粒子の移流のようす (avi; 53MB)。コンターは流れ場のポテンシャル渦度(PV)をあらわす。極を中心としており、緯度線はそれぞれ60度、30度である。

ムービー1はその結果である。渦の外側の粒子(赤)は90日で非常によく混合される。 最初にジェットの南北シアーによって東西方向に大きく引き伸ばされ、 線状になって極渦を何重にも取り囲む。 途中でいたる所で折り曲げを受け、何重にも折りたたまれる。 この引き伸ばし・折りたたみを繰り返すことにより、 流体粒子が比較的短時間で効率よく混合される。 このような混合過程はカオス的混合の典型例である。 かき混ぜられる領域はPVが一定の場所とほぼ一致している。 混合の領域はおよそ緯度25度から45度のあいだに限られており、極側にも赤道側にも障壁が存在している。 極側の障壁は極渦の縁(PV勾配の極大域)とは最大10度ぐらいずれていて、ごく少数の粒子が極渦の縁付近まで到達する。 極渦の内側(青)でも同じように、 引き伸ばし・折りたたみの繰り返しにより混合がおこっている。ただし90日後でも粒子が入りこまない領域が、極渦内に2か所見られる。

過去の研究でいわれているように、外側の粒子と内側の粒子はお互いに混ざり合うことはなく、極渦の縁は輸送障壁としてはたらいている。しかしその障壁と極渦の縁とは最大10度ぐらいずれていて、また内側にはそれとは別に粒子が混ざり合わない領域があることがわかる。