1. はじめに
1.1 背景
 高速航空機は主翼に発生する衝撃波を軽減するために後退角を採用している.しかし後退しない場合と比べると,後退する翼はより早期に乱流遷移することが,Gray1)の飛行試験から明らかにされている.その理由は,後退翼根から翼端の前縁に沿う流れが発生することに加えて,外部流の方向と翼の圧力勾配の方向が異なるために翼の前縁および後縁近傍で横流れが誘起されるためである.これらの流れに起因して,前者は粘性型の付着線不安定,後者は非粘性型の横流れ不安定を誘起する.また,前縁近傍で外部流線が曲げられることに起因する流線曲率不安定2-5)の存在が確認6-7)された.さらに後退翼の中翼弦の順圧力勾配領域においてはT-S不安定の発生の可能性もあることから前縁から後縁に沿う境界層は都合4つの不安定に遭遇することになる. 
 このように層流後退翼の設計においては,4つの臨界レイノルズ数の考慮が必須要件となる.付着線境界層の臨界レイノルズ数Rcは古典的な線形安定解析8)によると,付着線に直角な波面を持つ微小撹乱に対してRc= 583である(図1a) .一方,Itoh2-5)は斜行波の取扱を可能にしたモデル方程式を用いて付着線近傍領域を模擬した後退円柱(図1b)の付着線から離れた領域の安定解析から,横流れ不安定と流線曲率不安定に起因して局所臨界レイノルズ数が下流方向に急激に低下することを示すとともに,それぞれほぼ230および210の極小値をとると予測している(図1a).しかし付着線により近い領域では理論解9)が発散し,局所臨界レイノルズ数を決定できていない.そこで我々は層流翼の設計指針を得るために,実験的に臨界レイノルズ数を決定することをこれまで試みている.

(a)

(b)

図1: Λ=50゜の後退円柱に対する臨界レイノルズ数と局所レイノルズ数の変化 (a)と 後退翼付着線近傍領域の模式図(b).